不思議の国のありさ

プロローグ



 ――ガタンゴトン



 その日私は電車に乗っていた。



 今日は大学の授業が始まる日だったから、少し早い電車に乗った。緊張していたのは、学生生活がはじまるからか、流行りの着たことがない花柄のワンピースが落ち着かないからなのかわからなかった。


 電車に乗ったことからが、これからの出来事のはじまりだった。



 ――まもなく◯◯、◯◯。お降りの方は……。



 何駅目かで分かったことだけれど、私は電車通学は苦手になりそうだ。


 高校までは自転車か徒歩で通っていたから、電車に乗る機会が少なかったから気づかなかったけれど。



 私がそう思うのは、乗り物酔いしやすいから。窓の外を見てない限り、すぐに気持ち悪くなる。どうやらそれは電車にも当てはまるようだ。しかも最悪なことに動いてない時もそうらしい。



 だから『その人』が乗ってきたとき、私は直ぐに気づいた。



 『その人』は格好だけでもどこか異質だった。


 白いタキシードを着て、白いシルクハットを頭にかぶっていた。



 最初は結婚式場から来た人だとかそんなことを思っていた気がする。



 でもだんだんこっちに近づいて来るにつれて、“そういうの”がよく分からない私でもかなりかっこいい人だって気づいたから、俳優さんか、もしかしたらハリウッドスターかもとか思っていた。



 しばらく見とれていたから、違和感に感じたのはだいぶ後だった。



 はじめはあんなかっこいい人がいるのに、誰も騒がないことだった。


 私の知っている“そういうの”に敏感な人は、かっこいい人がいただけで大騒ぎとまではいかないけど、友達とこそこそ話したりする。その場に友達がいなくても振り返ったり、ひどい時には携帯で写真を撮ったりもする。“そういうの”にとても疎い私でも見とれるくらいなんだから、誰か見とれているのが普通のはずだ。



 それでも誰も、そういう仕草をしている人はいくら探してもいなかった。



 そのことに気がつくと急に私は怖くなった。『その人』は相変わらずこっちにどんどんこちらに近づいてくる。




 『その人』はかっこいいだけじゃない、どこか違和感があった。



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