仕立て屋編 「今日、ロイドに怒られたの。私がマイナスのことばっかり言ってるから」 「あいつを怒らせたということは、相当言っていたらしいな」 私は否定はできなかったので、そのまま話を続けた。答えなくてもハットには分かっているだろう。 「今から考えてみれば、私があきらめていたからだったんだね」 「『あきらめる』ということは、信じている側からしたらとても悲しいことだ。もう君には、ずいぶん身に染みているようだがね」 「うん」 夜がだんだん今日を侵食していく。でも、私は明日がまだあることを信じた。そうやってきっと誰もが夜を越えていく。 「ネネちゃんはもうあきらめないよ。服が作るのを好きなことを、服を作りたいことを知ってるから、もう負けない」 ハットはうなづいた。そしてふいににやっといつもの不思議な感じでほほ笑んだ。 「ネネだけじゃないだろ?」 「それが私のことなら、『YES』よ」 きっとハットのことだから、ネネちゃんのことをオーバーに言って私を脅したのだろう。ただ問題を解決するために。 それ以上はハットの考えていることは難しすぎて分からない。問題が解決してないのに今日私を見にきてくれたのだから、それだけは確かだ。。 私が不敵に言うと、ハットはなぜかすっと目をそらした。 「それなら『彼女』に会う前にネネに会えて良かったな」 『彼女』が誰なのか私には気になったけれど、ハットが言う前にロイドの声がした。 「『彼女』に会うのはまだ先だろう。まだアリサの存在は気づかれていない」 「当たり前だ。私を誰だと思っている。そう簡単にあいつに渡すか」 「そうだね」 私の分からない方向に話が進んでいるので戸惑っていると、ロイドは私に向かっていつも以上にやわらかい感じでほほ笑んでくれた。 「あんなこと言ったのに、僕のことを信じてくれてありがとう」 何だか急に泣きたくなった。私は自分が信じてもらえないことの悲しさをやっと今、本当に分かったような気がした。 「いつも信じてるよ。だって、ロイドはいつも私のこと心配してくれるって知ってるから」 『何で信じてくれないの?』とは怒れなかった。それ以上に悲しくてしかたなかった。 私の頭にふわっと手を置いて、ロイドは言った。 「悲しいなら約束してよ、アリサ。もう自分のことを疑わないって。自分のことをあきらめないって。せめて僕らのために」 「うん、ありがとう。ごめんね」 こんな風に自分を思ってくれる存在を知って、私は涙をこらえるので精いっぱいでそれしか答えられなかった。 「アリサ!」 「見て見て!ネネちゃんが作ってくれたよ!」 急に双子の声がしたので、私は涙を心の奥底にしまった。 prev/next |