.colorful dot.

79

 

 それが恋だったかということを一番知りたいのは、私である。


 どんなに親切面しても赤の他人やら野次馬にしかなりきれない奴らに、真相を語られる筋合いはない。


 最初は、彼といるのが楽しかった。廊下で昇降口で、図書館の駐輪場で駅で、毎日のように話しているのが楽しかった。そのうち、毎日のようにではないことに気がついてしまった。私たちは、毎日会っているのだ。朝、廊下に出たとき、帰り。一日で何回も。

 別に約束しているわけではない。同じ物をわざと選んでいるわけでもない。会うのを狙って時間を合わせているのではない。クラスも同じではない。廊下の両端と両端。携帯の電話番号もLINEも知らないから、連絡もしたことだってない。

 住んでいる場所も自転車で行くには少し大変な私たちなのに、休日でも行く場所に偶然いるのだ。受験生だから、家か学校か学校近くの図書館と行く場所も決まっているのは事実だが。


 まあ、会ったからには話さないわけにはいかず。話していると楽しくなってしまうから声が大きくなり笑顔が大きくなるのは当然で。話しているのが多いのだから、話しやすいのも当然で。

 後ろでこそこそ話されているとか、相手がどう思っているかは気にしたことも意識したこともない。

 あと高校生で居られるのも、約半年。この先も一緒にいるのかと問われれば、分からないと答えるしかない。今のところ進路は別々と聞いている。だとしても、必ず私たちはどこかで出会う。それだけは確実にいえるような直感がある。


 確かに、周りにはカップルが何組かいるし、一人でいるのも寂しいし、私も誰かと付き合うことに憧れはあるけれど。


 彼とは、説明のためにここまでに字数が必要な関係である。偶然が意図的ではないことと、高校生の男女が恋人ではないことを説明するためにここまで字数が必要だとは。そりゃあ話して伝わるわけがないのかもしれない。



 さて、前置きはここまでにして、こういうわけで私たちは今日も図書館の駐輪場にいる。


「塾で勉強すればいいでしょ」

「そっちこそ家でやればいいだろ」

「一人だからエアコン代がもったいないのよ」

「こっちだって昼代がもったいないんだよ」



 いつも肝心なことを聞こうとしても、始終こんな感じなので聞く暇がない。ということで、私たちなりに私は会話に挟んでみた。


「ねぇ」

「ん?」

「私たちすごく気が合うと思わない?」


 相手のテンポがずれた。


「まあ、合わないことはないんだろうかれど」


 相手の話し方にも警戒心が感じられる。私は言葉を待ってみた。


「だからって付き合うのとは違うだろ」


 おぉ、こうきたか。さては、彼も周りに何か言われてるな。


「私もそう言おうと思ってたの」


 相手が少しうつむいてふきだす。


「ちょうど俺もそういう話をしたかったんだ」


 今度は私がふきだした。二人でひとしきり笑ってから、私は言葉を続ける。


「付き合ってないし、これからそうなるかは分からない」

「そうだろ。今はそれどころじゃないしな」


 そう、私たちの目の前には、色も形も大きさも違うそれぞれ”受験”という壁が立ちはだかっている。そのせいで、未来はまだ見えない。


「とりあえず、今は気の合う友達でいいんじゃねぇか」

「よく会う友達ね」

「そうそう。たとえ違う大学に行こうとも、俺たちはまた出会うよ」


 同じことを思ってくれているのが嬉しい反面、いつまでも同じところにいようとするのがもどかしい。私は少しいじわるをしたくなる。


「会いに来てくれるんじゃなくって?」

「……いつかはそうなるかもしれないな」


 今の私には、その間がちょうどよかった。心が軽くなった気がした。


 急ぐことはない。私たちの長い夏も、青い春もまだはじまったばかりだ。だから彼との関係に今の私に付け足す言葉はこれだけだ。


「高校卒業してまた会ったらさ、LINE交換しよう」


 相手は何も言わずに笑って頷いた。だから私から次この話をするのは、明日ではなく、合格発表のときでもなく、卒業式でもないことを決めた。もしかしたら、この話はずっとしないままかもしれない。今はそれでもいい。



 結論からいおう。

 それが恋だということを一番知りたいのは、私である。

 しかし、それは今であってほしくないと知るのも、一番は私である。




よくある話
私と彼との偶然の関係