68 私は、泣くわけにはいかないの。 電気を消して、外の色と部屋の中を同じ色にする。月明かりがぼんやりと部屋の物の輪郭を浮かび上がらせる。 目を開けているのに、目を閉じているような不思議な感覚に陥るこの瞬間、一番気が緩むこの瞬間、私は決意を新たにする。 私は、泣くわけにはいかないの。 たとえ、ここに他に誰もいなくても、たとえ他に誰にも見られないとしても。たった1人、自分は知ることになるのだから。 それは誰が悲しいものだと言ったとしても、それが本当に悲しいものだったとしても、それを私の中で悲しいものにするわけにはいかない。 これまで一緒に過ごした時間も、経験したことも忘れなければ、無くならない。だから何も失ったわけではない。失うことが悲しいのならば、覚えていればいいだけ。 私がたとえ1人になっても、私1人である限り、涙の居場所はない。行くあてもなければ、還る場所もない。 私と一緒に夜を彷徨って、現実のような悪夢を見て、寝た気にならないまま朝を迎えるのだ。 分かっている、私も道連れなのよ。 迷う涙 だけれど私以外は道連れになんてさせない |