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 この世界には"現実"という名前がある。



 ミュージックプレイヤーのタッチパネルで曲を選ぶ手を止めた。

 どの曲を聞いても同じ。私はただこの周りの雑音を、この耳に入れたくないだけだから。それだけのためならば、どの曲でもいい。


 偶然手を止めたところで曲を再生すると、軽快なリズムはざわざわとした雑音と、ざらざらとした雨音を掻き消していった。



 この世界には、絶対的な支配者がいる。

 "彼"の前では、金も名誉も関係ない。だから私がいくら目を閉じて耳を塞いでも、関係なく私の内側へ入ってくる。


 老いも若いも、男も女も、"彼"の侵略から逃れることはできない。"彼"の支配は、すべてにおいて平等。



 "彼"の名は、"時間"という。


 しかし、"彼"にも唯一手の及ばないものがあるらしい。

 でなければ、なぜ私は未だにここに立ち止っているのだろう。忘れられない荷物をずっと引きずって、同じ名前を口にする。



 私のその声なき悲鳴は、今日も彼には届かないのだった。



侵略者は私の心を見逃した
私は未だ、彼を忘れていない