62* 月明かりが、陰を伴って世界の輪郭を描く。銀色というには無機質で、白と呼ぶには濁っている。彼女の表情は三日月の如く欠ける。それが彼女の視線の先の三日月と似たようなものだということに、彼女は気づかない。 黎明の時はまだ遠い。まだ夜は更けたばかりだった。彼女の睫毛がひとつひとつ陰をつくる。やがて彼女は、その陰を振り払って言い放つ。 「あなたがかけなくなったら、世界は終わるの。いずれ太陽がこの地を暖めたとしても、あなたの瞳に光が射さないのならば、そこには何もないの」 花々が待ちわびていた頃とはいえ、風は日がおちれば冷たい。開いたままの窓が部屋の温度を下げていく。 それでも、彼女は三日月に挑むように独白するのだった。 「逆にいえば、あなたがかくのを止めなければ世界は終わらない。たとえどんなに、世界が終わりに向かっていたとしても。それは分かっているのに……」 彼女の言葉の続きは、彼女の胸中でのみ映像を伴って語られる。 背が彼女の膝丈しかない子供の、無防備な微笑。開き直ったように、しかし全てを受け入れ確かに一点を生きる人々。 彼らは小さな手をそれでも伸ばして、手を取り合って生きている。彼らの生き様は、まるで暗ければ暗いほど輝く星座のようだ。 たとえ今すぐに世界が終わったとしても、彼らに悔いはないのだろう。 「……決めた」 彼女は再び陰を振り払って言い放った。 「私、彼らのことをかくわ。彼らのことが月日に埋もれないように、ずっとこの世界で輝く星座のために」 彼女の決意を、星の瞬きがこたえた。 地上の星座の物語 孤独と向き合い生きる人々へ |