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 月明かりが、陰を伴って世界の輪郭を描く。銀色というには無機質で、白と呼ぶには濁っている。彼女の表情は三日月の如く欠ける。それが彼女の視線の先の三日月と似たようなものだということに、彼女は気づかない。

 黎明の時はまだ遠い。まだ夜は更けたばかりだった。彼女の睫毛がひとつひとつ陰をつくる。やがて彼女は、その陰を振り払って言い放つ。


「あなたがかけなくなったら、世界は終わるの。いずれ太陽がこの地を暖めたとしても、あなたの瞳に光が射さないのならば、そこには何もないの」


 花々が待ちわびていた頃とはいえ、風は日がおちれば冷たい。開いたままの窓が部屋の温度を下げていく。



 それでも、彼女は三日月に挑むように独白するのだった。



「逆にいえば、あなたがかくのを止めなければ世界は終わらない。たとえどんなに、世界が終わりに向かっていたとしても。それは分かっているのに……」


 彼女の言葉の続きは、彼女の胸中でのみ映像を伴って語られる。



 背が彼女の膝丈しかない子供の、無防備な微笑。開き直ったように、しかし全てを受け入れ確かに一点を生きる人々。

 彼らは小さな手をそれでも伸ばして、手を取り合って生きている。彼らの生き様は、まるで暗ければ暗いほど輝く星座のようだ。


 たとえ今すぐに世界が終わったとしても、彼らに悔いはないのだろう。



「……決めた」


 彼女は再び陰を振り払って言い放った。


「私、彼らのことをかくわ。彼らのことが月日に埋もれないように、ずっとこの世界で輝く星座のために」



 彼女の決意を、星の瞬きがこたえた。



地上の星座の物語
孤独と向き合い生きる人々へ






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