58* 「お菓子ちょうだい!」 もう『おかえり』の代わりにこんなことを言われるようになってから1週間は経ったかな……。 僕は仕事帰りにお菓子を買って帰るというのが日課になりつつあった。 「もう11月になってるんだけれど」 そう言いながらカレンダーを確認すると、そこには祝日を示す赤い文字が書かれていた。 「しかも今日は文化の日っていう祝日なんだけれど」 「ハロウィンだって立派な文化よ!」 ……もう何も言うまい。 「とりあえず、はいお菓子」 「ありがとう!」 「せめて『Trick or Treat』って言ってよ」 「言ったらお菓子もう1つくれるの?」 「違う!」 お菓子はあげたので、僕は玄関から靴を脱いであがる。いつものことながら、もう何を言っても無駄だよな。 「だいたい家では『Trick and Treat』なんでしょ」 姉は僕が昨日お菓子をあげたことは忘れてしまうくせに、去年のことをまだ覚えていた。僕もこんな姉といるからか、それともやっぱりこの人の弟だからかその言葉を覚えていた。 「そうだね。じゃあ『Trick and Treat』!」 僕がそう言うと、姉はさっきお菓子をもらった時よりもさらに顔を嬉しそうに輝かせた。 「やっと言ってくれた!ずっと私は準備してたのに、全然言ってくれないんだもん!」 どうやらここまでハロウィンが長引いたのは、僕が『Trick and Treat』と言わなかったかららしい。そのことに気がつくと、仕事の疲れが消えていった。 「はい、3日遅れちゃったけれど」 そう言って僕にいかにも甘そうなお菓子の詰め合わせを渡してくれた。 「もう僕のプレゼントにピンクを使うの止めてくれない?」 「だって私にとってはかわいい弟なんだもん!」 にっこり笑ったまま姉は『今年はいたずら何してくれるの?』と言った。 長引いたハロウィン どこまでも手のかかる姉とどこまでも助けられている僕 |