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57*

 
『お菓子ちょうだい』


 仕事帰りに食卓を見ると、僕の分のご飯と一緒にメモが置いてあった。メモの端にピンクのハートを持っているクマがいる時点で、姉に間違いない。



「……今日って何かあったけ?」


 いけない、疲れてる。つい声に出してしまうなんて。そういえばいつも僕が帰ってくると真っ先に会う、肝心の容疑者(ほぼ犯人と確定)とされる人物の姿が見えない。


 ともかく、お腹空いたから食べよう。立ちながら寝る前に、皿にかかったラップを取る。



 それにしても珍しい。姉が僕に何か自分から要求するなんて。いつも押し付けるだけだったくせに。

 しかも『お菓子ちょうだい』?またさらに子供に戻ったかな。年齢を重ねる度に若返ってないか、あの人。



 そんなことを考えながら、ハンバーグをぱくり。……危ない、僕まで子供に戻っている。



「お姉ちゃん明日まで帰らないって」

「ふーん」



 疲れている時に疲れる人のことなんか考えるべきじゃない。明日帰ってくるならその時に聞こう。


 カレンダーをぼんやり眺めながらそんなことを考えて、ついでに仕事の予定を思い出して憂鬱になったりして、もう少しで今年も10月が終わってしまうんだなんて気づいたりした。


 メモをもう一度見ると、クマがまだ何かしゃべっているようだ。


『お菓子くれないとイタズラしちゃうぞ〜』



 ……これ以上問題事を増やす気ですか。さすが我がと認めたくないけれど我が姉。メモでもクマに代わりにしゃべらせても姉は姉。


 何か引っかかったような気がしたけれど、引っかかったと思った代わりに出てきたのは明日やらなければならない書類の提出だった。


 とりあえず明日を平和に迎えられるように、僕は姉の大好きなペロペロキャンディーを買っておくことを決めた。






 という昨日の話を思い出した。


「で、お菓子は?」

「書類の再提出があったから忘れた」

「じゃあ、その書類食べてやる!」

「ヤギか!……え、本気なの?マジで止めて!明日お菓子買ってくるから!」



 ……結局姉になぜお菓子が欲しかったのか聞けないまま、今日もイタズラの対応に追われた。



記念日じゃなくてもいつも通り
姉も僕もいつも通り






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