.colorful dot.

53*

 
 彼女曰く、完全な無などないのだという。



「また来たのか」


 珍しくの僕は話しかけてて、珍しく彼女は口元に笑みを浮かべているというよく分からない図。考えたくもないのかということも考えたくもなくて。


「もしかして、完全な無って今の自分の状況なんじゃないかって思ってるの?」


 彼女は僕の答えを聞く前に笑い出した。真っ白のワンピースの裾が一緒になって揺れる。僕はそれを見ても何も感じなかった。いや、感じられなかったのかもしれない。


「違うわ。感じることを放棄しただけよ」


 彼女の声は特別優しくも厳しくもなかった。音で表現するとしたら、これが”真実”という言葉そのものだろう。


「だいたい、完全な無やら闇やらを自分以外だって感じるってことはね、自分がそのどちらでもないからなのよ。違うものが存在しているという時点で完全な無も闇も成り立たないわ」


 理屈で考えると、どうやらそうらしい。そうだと納得したい自分もいて、そうだと納得したくない自分もいて。


「光の中で何かが存在していると後ろに影ができるように、闇の中で自分が残っているということは存在という灯が自分の中にあるから。それがあなたが求めているゲームやらマンガやらの答えよ」

「ふーん」


 ため息以上言葉未満の音で、否定も肯定もせずに僕は答えた。


「時間が経てば分かるわよ」


 彼女はそう言ってまだ珍しいことに笑っていた。



 『まだ絶望するのは早いわよ』


 彼女が言わなかった言葉を聞き取ると、僕は朝という存在に起こされた。


存在という光
私たちは影だらけの暗闇で生きているだけだ






- ナノ -