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05

 
『何だか、夢の中にいるみたいだね』



 この前久しぶりに会った彼はそう言っていた。



 それが何を指しているのかは、聞かなかった。聞けなかった。



 新しい生活にやっと少し慣れてきて、今まで新しい生活に慣れるために必死にやってきたことで何かを失ってしまったような自分に気がついた。


 だけれど、それはきっと新しい生活になってから上手くいかないことが続いているからだと言い聞かせた。



 私が失くしてしまったものが何だか知ってしまうのが怖かった。だから『夢の中にいるみたい』と言った彼に何も聞くことができなかった。



 もちろん、私がそんなに不安だなんて彼には言うことができなくて、新しく住み始めたマンションが新しくてきれいで広いとか、駅ビルのお気に入りの雑貨屋さんの話とか自分とは関係ないことをずっと話していた。



 だけれどその日彼と別れてから何日経っても、考えずにはいられない。彼の言う『夢』とは何を指していたのか。



 もしかしたら、彼も私と同じような気分なのかもしれない。




 何だか自分が、現実ではなく夢の中をフワフワ歩いているような、どこか異世界にいるような、または自分が本当はどこにもいないような、そんな感じ。



 彼はいくら愛しあっていても他人のはずなのに、同じことを考えている。


 ふつうだったら、とっても幸せになるけれど、今の私は怖くなった。





 私は空に向かって、指で四角を作ってみた。



キリトリセカイ
ほんとうの私たちは一体どこにいるんだろうか?






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