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46*

 
「はい、これ!」


 仕事から帰ってくるなり、目の前にはピンクの包み紙と赤いリボンでいわゆるラッピングされた細長い箱が差し出された。その相手はといえば、妹というか子供と言っても間違ってはないと思われるほど無邪気な姉。


「……どうしたの?」


 その箱を差し出してる相手の機嫌を十分考慮して聞いた。というのも、相手がくれるものに控えめにいってあまりいい思い出がないからで……。


「何でしょう!」


 箱を差し出す手を少しもひっこめずに楽しそうに笑うだけ。答えてはくれなさそうなので、思い当たることがないか考えてみる。

 誕生日はまだ遠い。ほかのイベント事といえば、夏休みがもうすぐ始まるけれど、お互い社会人には関係がない。ほかのイベント事もまだまだ先だし……。



「受け取ってくれないなら、自分で開ける!」


 いつの間にか目の前の相手はすねてしまったようで、派手に紙袋を破く音が聞こえた。


「ちょっと待って!今日って何かあったけ?」

「今日自体には何もないわ」


 姉のその答えにさらに僕が何か聞くのと、姉が包み紙を破り終えるのはほぼ同時だった。


「弟の日のプレゼント」

「弟の日?」

「ほら、この前姉の日をやってくれたじゃない。あれのお返し」


 僕にとってそのお返しは仕返しかもしれない。そんなことを思いながらも、やっぱり悪い気はしない。


「かわいいのがなかなか見つからなかったのよ。ほら、これかわいいでしょ!」


 姉が箱を開けると、中にはピンク色のクマ柄が出てきた。


「これ、何?」

「何って、ネクタイよ。さっそくしてみてよ!」

「嫌だ!」

「いいから、いいから」


 『何もよくない』とか『そりゃあそんなの探すの苦労するよ。ってかよく見つけたな』とか言う前に、姉をどうやったら突破して家の中に入れるか考える。

 こういう時なぜか姉は機嫌を全く損ねない。それどころかどんどんテンションが上がっていく。


「やめろぉぉ」


 近所の迷惑になるからと怒られたのは、いつも通りなぜか僕だった。



弟の日はきまぐれ
姉が気に入ったものを見つけた時






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