43 『いつか』でいいのよ。だから、いつかで。 目立つのが目的である真っ赤なマントが風に揺れる。 彼がかつてその色を選んだのも、今もその色を選び続けているのも、有名になりたいからではなかった。目立ちたいからでもかっこうつけたいからでもなかった。 『敵にすぐにみつけてもらうため』それだけだ。 彼がこの派手なマントを着て、この街を守り続けてから十数年が経った。 彼の素顔を知るのは今もたった1人、私しかいない。 ヒーローに赤以外に似合う色があることも、私しか知らない。 「ごめん、次は必ず……」 「そうね。また『いつか』ね」 守られることのなかった約束を、すぐには守られることはないだろうけれどまた約束した。 「後のことは私がやるから、あなたはいつも通りに」 彼にうなづく以外のことをさせる前に、私は背を向けた。 今年もお花見ができないまま春が終わっていくように、今年の夏も海には行けなさそうだ。 でもそう、私たちの時間は未来でいい。彼が戦わなくてよくなったら、その時に約束を守ろう。 いつかの約束をふり向いて、彼の背に託した。 いつかの約束 守られるのは『いつか』でいい |