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41*

 
 私の名前には”美しい”という意味がある。

 しかしそれは、言葉上のものだけだった。



「ーー!」


 誰かが私の名前を呼ぶ声がした。誰もを不安で不快にさせるその声を、呼び方を、私は決して美しいとは思わない。



「ーー!」


 今度は甲高い耳鳴りのような声がした。誰をも苛立たせるその声も、呼び方も、私は決して美しいとは感じない。



 だから、答えなかった。応えたくなかった。


 どこまで逃げても、どこまで待ってもそれと変わらない声が私を呼び止めようとする。

 どれも変わらないのにどこか違って、どれも同じようなのに微妙にずれている。だけれどどれだけ違っても大して違いはなかった。私の見つけたかったものではないということに違いはなかった。



 なぜ、私は”美しい”と名付けられたのだろう。


 不協和音で私は何を探していたのか、何を求めていたのか歪められる前に閉ざされてしまった。そしてついには、自分の中にさえも存在させないことを選んだ。





「ーー」


 私の名前が呼ばれた。私は声のする方に振り向いた。たった一度で良かった。だけれどずっと呼び続けていてほしかった。



 その声のやわらかさとおだやかさに、呼び方のとうめいかんとあたたかさに、私の存在は一瞬で姿を変えた。


 視界の眩しさに私の全ては、ふわふわして何かに包まれているようでいるのに、どこまでも飛んで行けそうな、そんな感覚でいっぱいになる。





 その時私は初めて、自分の本当の名前を知った。



”美しい”という人
他者の存在によって言葉は意味をもつ







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