38 「で、賭けってこれ?」 そいつの前に広がるすごろくを見ながら、俺は尋ねた。 「そう。久しぶりにすごろくやりたくなってさ。ってことでやろうぜ」 「何を賭けるんだ?」 「あんぱん!」 深刻そうな電話で呼び出したかと思えば、そんなことか。あんぱんぐらい安いし、元気づけるために負けてやるつもりだったからいいんだけれど。 「嫌なことあるって言ったから心配してたんだけれど」 気が緩んで、つい本音が出てしまった。失敗した。 「そうだったんだけれどさ……」 そいつはさいころをそっとふった。音もなくさいころはある程度転がってから止まった。目は3だ。 「何か、すごろくと似てるなと思って」 「何が?」 そいつが赤い服を着た人型のコマを進めたので、俺はさいころをふった。目は5。 「さいころの出る目なんて、運しだいなんだよな。『運も実力のうち』なんてよく言ったよ」 「それが何に似てるんだ?」 ……こいつとは長年の付き合いだが、こいつが何を言いたいのかさっぱり分からない。 「人生に」 「はっ?」 まさかついに気がふれたか?そう思ったのはまだ早かった。 「はじめから決まっていたのかもしれない。偶然だったのかもしれない。でもそんなのはどうでもいいんだよ」 俺が青い服を着た人型のコマを5つ進めると、そいつは立ち上がった。 「どうせ決まってるなら、自分の好きなままにやればいい。まだ決まってないなら自分の好きなようにやればいい」 そしてサイコロを持ったまま大きくふりかぶる。まさかと思った時にはもう遅かった。 「ストライク!」 教室の至る所に当たった音を響かせて、サイコロはどこかへ消えた。 「『ストライク』じゃねぇよ、バカ!サイコロどこやった」 「もし運命ならさ……」 そいつは俺の言葉を無視して、語りだした。 「普通に投げても、こうやって投げても出た目は同じだ。もし偶然なら、俺は自分のやりたいようにやったからそれでいい。進めるだけでいい」 そいつは勝手に言って、勝手に頷いた。俺がやっと教室の隅にあるサイコロの目を見つけた時には、6の目を出していた。聞くまでもない。こいつはそれを伝えるためにすごろくを持ってきた。制服が似合うかも怪しいこの年になって。 そいつが6つ赤い服を着たコマを進めた先は『3回休み』だった。 それを見ても、そいつはふっきれた顔で『大きい目を出したからって良いことあるわけじゃない』と呟いた。俺はもう、わざと負ける気はしなかった。 サイを投げろ! 今もどこかへ進んでいる俺たちへ |