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「で、賭けってこれ?」


 そいつの前に広がるすごろくを見ながら、俺は尋ねた。


「そう。久しぶりにすごろくやりたくなってさ。ってことでやろうぜ」

「何を賭けるんだ?」

「あんぱん!」


 深刻そうな電話で呼び出したかと思えば、そんなことか。あんぱんぐらい安いし、元気づけるために負けてやるつもりだったからいいんだけれど。


「嫌なことあるって言ったから心配してたんだけれど」


 気が緩んで、つい本音が出てしまった。失敗した。


「そうだったんだけれどさ……」


 そいつはさいころをそっとふった。音もなくさいころはある程度転がってから止まった。目は3だ。


「何か、すごろくと似てるなと思って」

「何が?」


 そいつが赤い服を着た人型のコマを進めたので、俺はさいころをふった。目は5。


「さいころの出る目なんて、運しだいなんだよな。『運も実力のうち』なんてよく言ったよ」

「それが何に似てるんだ?」


 ……こいつとは長年の付き合いだが、こいつが何を言いたいのかさっぱり分からない。


「人生に」

「はっ?」


 まさかついに気がふれたか?そう思ったのはまだ早かった。


「はじめから決まっていたのかもしれない。偶然だったのかもしれない。でもそんなのはどうでもいいんだよ」


 俺が青い服を着た人型のコマを5つ進めると、そいつは立ち上がった。


「どうせ決まってるなら、自分の好きなままにやればいい。まだ決まってないなら自分の好きなようにやればいい」


 そしてサイコロを持ったまま大きくふりかぶる。まさかと思った時にはもう遅かった。


「ストライク!」


 教室の至る所に当たった音を響かせて、サイコロはどこかへ消えた。


「『ストライク』じゃねぇよ、バカ!サイコロどこやった」

「もし運命ならさ……」


 そいつは俺の言葉を無視して、語りだした。


「普通に投げても、こうやって投げても出た目は同じだ。もし偶然なら、俺は自分のやりたいようにやったからそれでいい。進めるだけでいい」


 そいつは勝手に言って、勝手に頷いた。俺がやっと教室の隅にあるサイコロの目を見つけた時には、6の目を出していた。聞くまでもない。こいつはそれを伝えるためにすごろくを持ってきた。制服が似合うかも怪しいこの年になって。



 そいつが6つ赤い服を着たコマを進めた先は『3回休み』だった。

 それを見ても、そいつはふっきれた顔で『大きい目を出したからって良いことあるわけじゃない』と呟いた。俺はもう、わざと負ける気はしなかった。



サイを投げろ!
今もどこかへ進んでいる俺たちへ






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