36 遠くで朝の生まれる音が聞こえた。彼にも聞こえたようで、そっと私以外の体を起こす音が聞こえた。 何も見えない真っ暗な中で、朝を告げる鐘の音だけが唯一私たちに希望を与えてくれる。 「おはよう」 顔も見えない暗闇なのに、彼の声は真っ直ぐ私の顔を見て言ってくれているような気がした。朝の鐘の音を数えることさえとうに嫌になってしまうほどここに閉じ込められていても、どうやら私の中でも彼の人格は閉じ込められないものらしい。 「……おはよう」 私の顔がこの暗闇で見えていませんようにと祈りながら私は言った。彼は昔から私の表情で私の感情を当てる天才だったから。 「何て顔してるんだよ」 彼はまるで私の顔が見えるみたいにそう言って、私の頭をなでてくれた。 「いいんだよ。悪いのは外にいる奴らなんだから」 「でも罰を受けるのは私だけでよかったのに」 何回目かこらえきれなくなって私が涙を流すと、彼にはやっぱり分かるみたいでそっと抱きしめてくれた。 「争いは正しくない。それはいつだってそうだ。君を嘘つきになんてさせない。それに僕だって争いの中でのうのうと生きているくらいなら、ここがどれだけ天国に近いか」 彼はそう言って笑っていた。そしてまた、いつもと同じ言葉を言うのだった。 「僕は後悔してないよ」 ただ言葉は同じでも、彼が言う度に言葉の重さは増しているような気がする。 「……分かった」 だからその度に、私は何も言えなくなる。その代り、そっと1人心に誓う。 囚われの身も、先が暗い未来も何も変えられないなら、あなたも嘘つきになんてさせないわ。 希望が生まれた音は、まだこの真っ暗な空間にも響いていた。 私たちを嘘つきになんてさせない 私たちが真実と信じるもののために |