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「海のバカヤローーッ!!」


 聞いたことある男子の大声が川原で聞こえた。

 俺はバカにするよりも、呆れるよりも、自転車に乗ったまま川原の下り坂を下ってしまった。


「うおぉぉ!」


 叫んだ本人は誰か聞いてるなんて思ってなかったみたいで、びっくりするように大声を上げた。


「そこ、川なんだけれど」


 相手は俺と同じ制服を着ていることから同じ高校。さらにはあと数日すればつけられなくなる学年章をつけていることから同い年ということに気づいた。


 そういえば、いくつか離れたクラスにいたな。こんな奴。



「出やがったな、ヒーロー!」


 ……たとえ違う意味で笑いたくなっても、俺は友好的ないい人ぶった笑みは崩さなかった。


「何で俺がヒーロー?」

「あの下り坂を自転車に乗ったまま下ってこれる奴は、ヒーローだけなんだっ!」


 ……もう何も言うまい。



「何か嫌なことでもあったのか?」


 俺が聞くと、やっと彼(仮名)は少しうつむいた。


「受験全部起こっちゃってさ。予備校にも行けないしさ。家継ぐしかないかなって」

「家は何をやってるんだ?」

「大工」

「かっこいいじゃん」

「ありがとう。でも俺体力自信ないからさ。それに数学苦手だし」

「……じゃあ、どうするんだ?」

「それを海のせいにしてたんじゃないか!」


 偉そうにそいつは川を指して、言い切った。


「それ、川だから」

「いつかは海に行きつくだろ。その時伝えてもらうのさ」


 それ以上つっこむ前に、俺はあり得ない奴にはあり得ない言葉を言うのが一番だと思い当たった。


「どこにも行けないなら、ここにいろよ」

「えっ?」

「予備校行かなくたって勉強はできるだろうし、別に大学なんて行かなくても生きていけるだろ」

「そうかもしれないけれど……」

「いつか俺の家を建ててくれてもいいんだぜ」


 俺がふざけて軽く言うと、そいつは思ってもない言葉で言い返してきた。



「家を建てるってことは、お前もその分稼げるようになってるってことだよな?」

「あぁ……?」


 そこまで考えていなかったのであいまいに俺が頷くと、そいつは俺にびしっと指をつきつけて言い切った。



「ちゃんと金は用意しとけよ!がっぽりもらってやるからなっ!」



 そう言ってそいつは、『ふはははは』というわけの分からない声で笑った。



設計中の夢
どうやら俺にもまだやらなくてはいけないことがあるらしい






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