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 その声を聞いた瞬間、何も聞こえないふりをしていた。2回も聞きたくなくて聞き返せなかった。



「あなたは3日後に死にます」

 その胡散臭い占い師は、確かにそう言った。



 はじまりは、『あなたを必ず幸せにします』という看板の言葉だった。その横にあった『占い』という言葉だけでは、決して俺は立ち止まらなかっただろう。

 で、その言葉を見つけたきっかけは……。今はどうでもいいから止めておく。とにかく、遠回りしなくちゃいけなくて、普段は通らない路地裏を走っていた。

 逃げなければいけないはずだったのに、その言葉が目に入って逃げられなくなってしまった。俺のその様子は、まるで飛んで火に入るなんとかっていう光に集まる虫のようだっただろう。


「あなたを待っていました」


 立ち止まったままの俺の耳に、しわがれた男の声が響いた。声のした方を見てみると、そこには真っ黒の布を目深にかぶって顔もロクに見えない、人かもちょっと怪しい姿が見えた。


「……なぜ待っていたんだ?」

「あなたの未来を伝えるためです」


 そして伝えられたのは、俺が3日後に死ぬということだった。俺はその言葉を聞いて、恐怖より先に安心してしまった。3日間は生きられるということに安堵してしまった。




 そして3日後、明日が生まれる1時間前に俺はまたその占い師のところへ訪れていた。占い師は何も動じず3日前と何も変わらずそこにいた。


「占いが当たるか気にされたんじゃ死にきれないからな」


 俺はそう言って、少し冷えた缶コーヒーを占い師が肘をつけている小さなテーブルに置いた。


「俺って事故で死ぬからここにはいない方がいいか?」


 わざと確定しているかのように言うと、占い師は首を横に振った。


「その必要はないです。あなたは死なないのですから」

「はっ?」


 死ぬ直前に、まさかこの占い師にこんなドッキリをさせられるとは思っていなかった。

 驚いている俺に、占い師はだまって『あなたを必ず幸せにします』と書かれた看板を指した。



 ……あぁ、そういうことかよ。


 俺は確かに、この3日間幸せだった。それは『3日間は死なない』と信じていたからだった。しかしこれからも生きられるという言葉を聞いた瞬間から、その安心感とは違う今まで感じられなかった喜びが確かに胸を満たしていた。


「生きることは確かに、死ぬことと隣り合わせです。生きている限り死ぬ事からは逃げられない。しかし、だからこそ死の恐怖と戦い続けることは、生きているということなのです」


 俺はその言葉を噛みしめて、しばらく何も言えなかった。



「あんたって占い師じゃなかったのか?」

「時と場合によります」

「そうかよ。じゃあ、また俺が死にそうになったら教えてくれよ」


 俺は占い師の前に置いた冷え切った缶コーヒーを持って、明日へ歩き出した。



歯車は壊れるためだけにはまわらない
垣間見えた運命を壊して進め、進め






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