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23*

 
「行くの?」


 私の問いに、彼女はほほ笑んでうなづいた。


「だって、そろそろ幕はあがるもの」

「でも……」


 私が言いたくても言えない言葉を察して、彼女はうたうように言った。



「それでも私は行かなくては。だってこれは、どんな悲劇でも私たちのための物語よ」


 そこには悲しんでいる様子も、何かに酔っている様子もなかった。ただ凛として淡々と言葉を発する彼女はとても美しかった。



 さすがはこの人だ。


 この人にこういう面があるのはずいぶん前から知っていたけれど、私は改めて全神経をもっていかれた。



「悲劇なら最高に悲しくて無残な結末にしましょう。せめて、私たちには真実が残るように」


 この人が演じるからこそ、悲劇はより魅力を増すのかと思ったら泣いてはいけないのに視界がにじんだ。


 そんな私を見て彼女は少し悲しそうな目を向けた後、すぐに背を向けた。





 どうか、次に私たちに訪れるのは悲しい物語ではありませんように。





 私は彼女のために、朝の光を感じる瞼をゆっくりと開けた。



愚かなしかし美しい悲劇の主人公
最高の結末を望む彼女へ






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