11 ※軽い流血表現あり 鈍い音をたてて、人の体が倒れた。私はそれを聞き届けただけ。しかしその音は、すぐに夜の闇に消えてしまった。 隣国に侵攻されてずいぶん戦いは長引いている。その戦いをなるべく犠牲を少なくして終わらせるには、この国の名前だけの権力者である私が、その権力と女であるということを使って、敵国の勢力を少しずつ削ぐこの方法しかない。 この方法を始めた時から今まで、後ろめたさとかそういうものより……。こんな方法でしか、国や大切な人を守れない自分がとても虚しく感じる。 「姫様」 暗闇の中からぼうっとした灯りとともに、やわらかな彼の声が聞こえた。 「来てたの」 いつからそばにいたのだろう。私は動揺している内面を気づかれないように、つとめて冷静に答えた。 「お帰りが遅かったので」 その先を言わないのは彼の優しさなのか、それとも私を恐れているからなのか。 「決して来てはいけないと言ったはずよ」 私は彼にその光景を見せないようにその場から歩き出した。いつも着てるものよりはるかに丈は短いはずなのに、着物の裾が重い。 だが私の足はすぐに先には進めなくなってしまった。 「姫様、こちらにどうぞ」 彼が私の腕をつかんで示す方向を見れば、牛車が止まっていた。まさか牛車で迎えに来てくれたとは。 私はもう立っていられないほど疲れ切っていたが、それでも牛車に乗るわけにはいかない。わざと赤い着物を選んできたから目立たないだろうけれど、ここにはしっかりと罪の証がしみついているのだから。 「迎えに来てなんて頼んでいないわ。さっさと帰りなさい」 私は彼に気づかせないために、思ってもないことを口にした。 「そうですね。これは俺が勝手にやっていることですから」 彼は灯りを地面に置くと、私の頭に手をおいた。 「だから、姫様が気にすることではありません」 「やめて!!私に優しくしないで!私を姫様なんて呼ばないで!私は、私は……」 急に何かが内側からあふれて、体重を支えられなくなる。倒れそうになる私の体をやわらかく抱きとめて、いつもよりもさらにやわらかい声で言うのだった。 「知ってましたよ。毎晩明け方に帰ってきて、俺が気づかないとでも思っていたのですか?」 「放して……汚れるわ」 私は彼から体を放そうとしたものの、力が入らなくて叶わなかった。 「姫様は気にしないでください。俺が勝手にやっているだけですから」 そう言ってまた私の頭を優しくなでる彼の手に負けて、私はゆっくり目を閉じた。 それでも私が嫌いになれないのは 嗚呼、貴方がいるせいね |