さて、何から書き始めようか。 机の上に広げた便せんを眺めて、やっと自分が何も考えずに書き始めたことに気がついた。ペンのキャップが顎に当たる感覚を滑らせる。何も考えは浮かばない。 ということで、何も考えずに書き始めることにした。虚しい夜に相応しいはじまりだ。間もなく太陽が顔を出し、学校や仕事へそれぞれの場所へと皆旅立つ。その前に、羽を休める場所として。この場所は存在すればいい。 白くても黒くても、大きくても小さくても、青い鳥と追いかけられようが、カラスと虐げられようが、この場所だけは平等であれるように。 涙が涸れるほど流れても自分は死なないし、光がないかと思うほど絶望しても世界は終わらない。それを幸運呼ぶべきか。はたまたそれこそが不幸なのか。 ある人は、自由な空を求めて。またある人は、暖かな温もりを望んで。飛び続けるには、現実は少し厳しすぎる。だから、それを少しでも癒せる場所を。 風は少し吹いていた。少し開いた窓からカーテンを誘っては戻す。呼んでいるのは、自由な世界。私たちは、希求する場所にはたどり着けなくても、世界を創ることはできる。 それを、今夜も希望と呼ぼうか。 気がつけば、もう便せんの半分ほどが埋まっていた。疲れていた体はいつの間にか背筋が伸びたりしているし、眠くて霞んでいた視界は晴れ渡ったりしている。いつの間にか、はじまっていた。 これまで私を支えていたものは、今までも確かに存在して、私をこれからに進めようとしている。 何を描くつもりかは書き進めた今でも分からないし、それはできあがってからでも分からないだろう。それが、私の歩み方だ。 誰かの声は今日も聞こえないし、誰かを呼ぶ声は今日も届かない。 それだからこそ、12回目のこれからはじまる長い夜に宛てて。 |