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不可能なはずの物語


 そう、それは確かに不可能なはずだった。



 耳を壊すのが目的かのような警報が鳴り響く。落ち着かなくなるはずのその音も慣れてきてしまうほどの時間が警報が鳴り始めてから流れていた。

 視界の全てのものが赤くなったり黒くなったりする中、青年は人ごみをかきわけながら人の流れてくる方へと走っていた。

 黒縁のメガネをかけた白衣のようなものを着たひょろっとした姿は、とてもそんなことを平気でするようには見えなかったが、彼の頭の中はこの警報が何かのエラーであってほしいと願うことだけに支配されていた。


 そう青年が必死に願っていても、警報と人ごみの他に青年に向かってくるのは何オクターブの不協和音と化した悲鳴のみ。青年の努力は空しく、最悪の状況が何度も頭の中をフラッシュバックする。



 いやしかし、不可能なはずだ。あれは孵化するはずがない。


 青年がその部屋へたどり着いた時、そこには割れたガラスと色の識別できない液体が床一面に広がっていた。

 永遠に孵化するはずのなかったそれは、人間はおろかコンピュータをはじめとしたすべての電子機器を超越したことを示していた。


「嘘だろ……」


 信じることを不可とした青年の後ろに、いびつな黒い影が揺れる。



 青年がその影に気づいて振り向いた後には、悲鳴の残響だけが残っていた。





不可能なはずの物語
その結末も不可能なはずだった


Thanks for reading!!
Written by 秋桜みりや
Lips Drug様1、2月企画「ふか」






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