早まってしまった。 水の中で私の生きるために必要なものがどんどん離れていく。そんなぼんやりとした苦しみの中でも、自分のやったことが愚かだということは少しも変わらなかった。 なぜ、あんなことを言ってしまったのだろう。私たちの「必要」とは望んだことでも望まれたことでもなかったというのに。 それなのに、いつの間にか本当に必要とされていると思い込んでしまった。そして相手にもそう思ってもらうことを必要とするなんて。水が冷たいと感じるよりも、息が苦しいと感じるよりも、胸が痛いなんて異常。そんな気持ちは今すぐに消さなければならない。 遠くで私の名を呼ぶ彼の声がする。 私はさらに海底に行こうとしたけれど、それだけの力は残ってはいなかった。だんだん私の存在が拒まれるように浮上する。 「バカ!早まるな!」 『私』が呼吸をはじめられるように、彼は私を水中からすくって叫んだ。冬の海に飛び込んだのは早まったからじゃない。私は彼に愛を告白してしまった自分が嫌で、その存在を消したかったのだから。 「ありがとう」 言いたいことはあったけれど、彼の以外の一言によって阻まれた。 「えっ……」 一文字だけまだ酸素を求めようとする私の口から出た。 「俺の自由を守ってくれたんだよな」 否定したかったけれど、彼に抱きしめられて何も言えなくなった。 「俺たちが一緒にいなければならないのは誰かに決められたことだけれど、いつまでもそれに囚われないようにしてくれたんだよな」 違う。私はただその『誰か』から逃げたかっただけだ。私の存在理由を押しつけられたくなかったからだ。ただ、それだけ。彼が思っているような綺麗な理由ではない。 それとも、彼も私と同じ理由で逃げようとしているのだろうか。 彼の体温を感じて、幸せになるどころか冷静になってきた。それは彼の体温がだんだん冷たくなってきているからだと思い込んだ。 「……ごめん」 そっと口にする。そうでもしないと、彼は私の頭をなでる手を止めようとしないでずっとここにいるような気がした。 「もう二度とこんなことするなよ」 「分かった」 足りない何かを探しながらも私は素直に頷いた。そう、もうこんなことはしない。私が死んだら彼も死ぬことになるのだから。 「愛してるよ」 涙が流れるのを止められない私を抱きしめたまま、彼はそう言って暗い冬の海から抜け出した。 表裏一体 歪んでいるのかも分からないほど歪なまま Thanks for reading!! Written by 秋桜みりや 酸欠様2月企画「早まってしまった」 |