「なんで、だめなんだよ」

少し震える低い声に女は顔前の男をただ酷く困ったように見つめた。その表情に男はぐ、と手に込める力を強くして女を更にシーツへと押しつけるが、整えられたベッドの上に押し倒された女はやはり男のオレンジを見上げているだけだった。

「なあ、あんたはこんなに綺麗なのになんで、」

「手に入らないものほど、美しく映るものよ」

男は無表情を崩して女の鼻に自身の鼻を触れ合わせる。その赤い唇に噛み付いてしまいたい。しかしこの限り無く近いが故に限り無く遠く感じられるこの距離が、自分の踏み込むことの出来る限界であると男は心の何処かで充分に理解していた。

「じゃああんたはもう、ブラッドの瞳には美しく映っていないのか」

女は男に押し倒されて初めて、男の瞳から視線を逸らした。その様子に兎と同じ形をした男の耳がぴくりと揺れる。そんな事が有り得るはずがないと自分が一番良く知っていた。
彼は興味を無くしたものを愛で続けるようなそんな真似はしない。彼女の存在自体が、ボスと呼ばれる男の瞳に彼女がこの上なく魅力的に映っていることのなによりも強力で明白な証拠に他ならないのだ。
視線から外れたことで力を失ったように、エリオットは彼女の腕を解放してそのまま柔らかい身体の上に傾れ込む。肩口に顔を埋めると仄かに甘い香りと共に、良く知った男の匂いがしたような気がした。

「もうじき、余所者が来るわ」

そのオレンジの感触に女は解放された腕でその髪をゆっくりと撫でる。

「そうしたらあたしは、ただの役持ちになる。あなたが愛すべきなのは、その子よ」

女は橙色の長い耳に唇を寄せ囁くように呟いた。彼女はその言葉のナイフがどれほど鋭利に男の胸を貫いているのか知らないのだ。男は悲鳴に似た溜め息を漏らす。打ち消すように、遠くで二人分の子供の笑い声が響いた。
ああ、もうすぐ大切な彼女はこの腕から抜け出して大切な彼の元へ行ってしまうだろう。それでも、
「それでもオレは、名前のことを愛していたいんだよ」


erorr51
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