喉が変に張り付く。頭が重い。目蓋も重く、頬は腫れぼったい。腕を上げるのも億劫。呼吸がしづらい。熱は、本当にあったら気分が沈むから計っていない。
ルシアンビーズとしての任務の合間、なんとか帰ってきたの自宅。だらりとソファーに寝そべる青年に問いかければ、彼は目を閉じたまま、普段よりも低く掠れた声で答えた。
「チャイムに出ないのは良いけど、誰か入ってきたら反応してね」
キッチンに近付きながら声を掛けるも、帰ってくる反応は適当な唸り声だけ。熱が高いのは確実だろう。しょうがないなあ、僕はそういってミネラルウォーターをグラスに注ぎ、緩慢な動作で上体を起こした彼に渡す。
「何か作ろうか?」
ゆっくりと水を嚥下する喉に問いかける。
「良いよ、寝てたら治るし。お前は店に行けよ」
グラスを渡す時に触れた手もさほど熱を持っていなかったし、彼だって一般男性程度には身体も強く本当に寝れば治るタイプだ。一方、お店の方にはいつも通りに予約が入っている。彼の言った通り、キャトルセゾンに行ったほうが良いだろうけれど。
「うん、行ってくるよ。でもせめて、君がベッドで寝るまではここにいさせて?」
こういう時くらいは恋人面をさせて欲しい。コップをサイドテーブルに置き、ソファーに沈む僕より少し体格の良い身体を起こす。
「しょうがないなあ」
肩を貸す僕の横顔を珍しそうな表情で見つめて、今度は彼がそういった。寝室までの廊下に二人分の不規則な足音と、掠れた彼の声。
「じゃあそれっぽく、手でも握ってて貰おうかな」
小さく笑う赤い頬に、思わず唇を寄せた。
モッドの沈黙