「グレルってもっとこう、男っぽい人が好きなのかと思ってたよ」
ロンドン郊外のホテルの中、安っぽいベッドに座った少年はアジア系の幼い顔立ちにそぐわない鋭い表情で、目の前で偽りの顔を剥がす男を見つめる。銀のモノクル越しの視線をさらに化粧台の鏡越しに受け取ったグレルは、黄緑色に戻った瞳を少し細めた。
「あんまり見ないでちょうだい」
「どうして?僕結構好きだよ、グレルがそうやって戻るところを見るの」
「アタシは見られるの好きじゃないわ」
瞬く間に赤く長い髪に戻った男は赤いフレームの眼鏡を化粧台の上に置いて深い茶髪の少年が腰掛けるベッドに腰掛ける。座り際にニーハイブーツを履いたままの細い足を撫で上げられ少年はくすぐったそうに目を細めるが、モノクルの奥の瞳は黒い色を灯したまま。
「好きでしょ?例えばウィルさんとか、」
深い瞳が睨み付けるようにグレルを射ぬく。
「悪魔みたいな奴とかさ」
視線を喉奥の笑いだけで受け流したグレルはその瞳の光をもっと良く見ようと、少年の右目を守る銀をそっと外し、化粧台へと投げつけた。柔らかい頬をそっと撫でても弱まらない瞳の鋭さに満足そうに笑い、うっとりと目を細める。
「確かに好きよ、ゾクゾクしちゃう!でも」
ばさりと大袈裟な音を立ててグレルが少年の上半身をベッドに沈める。安っぽい生成りのシーツに広がる茶色と、塗り潰す赤。そのまま素早く少年の身体を跨げば、膝で刺激されたベッドのスプリングが喜ぶように鳴いた。
「こうやって押し倒すには、ちょっと違うと思わない?」
「…そうだね」
薄いシーツに埋もれた名前は小さく笑い、自身と男の顔を月から隠す赤いカーテンの中で腕をのばす。影に濡れた首に細い腕を巻き付け、鼻と鼻を触れ合わせた。そしてまるで噛み付くように、少年は目を細める。
「ねえ、抱いてよグレル。僕、グレルがそうやって男に戻るところを見るの、結構好きなんだ」