「…なんでだろうね、」

けほ、弱々しい咳と共に少量の血液を吐き出して、無機質なコンクリートに背を預けている彼はいつもより更に青白い顔でこちらをみた。

「こうしてニールと別れるの、初めてじゃない気がするんだ」

もう喋るな、そう伝えるように彼自身の赤に染められた小さな手を手袋をしたままの両手で握る。
いつも子供体温で温かいはずの彼の指は嘘のように熱を失っていて、思わず引き千切るように自らの手を覆うグローブを外してしまった。素手で触れてもなお俺の体温までも奪われてしまう程に彼の手は冷たい。

「きっと今まで何回もこうしてニールと別れて、」

左の脇腹と右の胸とを銃弾に貫かれた名前の服はもう目もあてられない程に真っ赤になっていたがそんな事に構う訳もなく俺は彼を抱き締めずにはいられなかった。
傷口が痛むのか一瞬息を詰めた少年は俺の肩に細い顎を乗せて溜め息を付く、それから色々な意味が込められた喉奥の笑みと共に擦れた声で俺の耳元を掠める。

「きっとこれから何回出会っても、ニールとこうして別れるのだろうね」

す、血塗れの手が持ち上げられて弱く俺の肩を掴み、それを合図に俺はそっと身体を離して彼を見る。彼が少しだけ大きく息を吸った音がごめんと小さく呟いた俺の声を殺して、

「また、ね、ニール、」



次の別れまでさようなら
(きっと神の国に行く前に)
(次の別れと出会うでしょう)









粉々になったデュナメス、見えなくなった仇、傷付いた自分の身体と遠くに見える汚れた世界。壊れてしまえば良いのに、あれから幾度そう思っただろうか。消えてしまえば良いのに、あれから幾度そう思っただろうか。それでもそうしてしまえないのは偏に、彼が生きた世界であるからなのだろう。
ああまたか、頭の何処かが呟いた。
また彼と共に終わる生ではなく彼を追って終わる生であったのか。壊れてしまえば良いのに、消えてしまえば良いのに、俺達に終焉を与えてくれない、こんな世界なんて必要ないのに。けれど、

「なあ、名前、お前はこれで満足だったか?」

幾度終わってしまえば良いと願っても、幾度解放されたいと、解放してやりたいと思っても、

「俺は、」

虚無の中での永遠なんて何の意味もない、神とやらの下での終焉なんて、いらない。

「嫌だね」

結局また俺は、彼との別れを選んでしまうのだ。



次の別れよこんにちは








天の国に行く前の彼の背中を俺は上手く捕まえたのだろう、俺と同じ黒い瞳と黒い髪を持つ母の見舞いに訪れた病院で、俺は別れの産声を聞いて静かに笑みを溢した。


(次こそは、そう願う事さえ忘れてしまった)

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