男の髪が暖房の風にさらりと揺れた。絵の具がすぐに乾いてしまわないように、しかし丁度良く上から描き込めるようにと調整された湿度の中、部屋の中央の椅子に座る男を取り囲むようにいくつもの画板が立てられている。その1つに向かい筆を握っている少年へ、男の仮面のような笑顔が投げられる。

「クリスマス、だって。きみは青春らしいことしないのかい?」

問い掛けられた少年は少し頭を動かしたが、またすぐにキャンバスへと視線を戻した。握られた太めの筆は動きを止めない。

「すると思いますか、あなたは」

「いいや、全く」

ぺたり、油絵の具を塗り付ける名前をキャンバスの隙間から垣間見て、少年の姿をした男はくすりと笑った。背もたれのない木の椅子に座り、細い足を組んだ男は会話以外の動きを取らずに、笑みを絶やさないでいる。たまに画板の森の間から現れる視線を感じては、飽きずにその青い瞳を見つめ返す。多くの人間が少年に不釣り合いだと表現する薄い氷の瞳は、実際は彼よりも長い時を生きた男にとっては正しく彼自身を表しているように思えた。
きっと画板の中がその瞳に嫉妬するから、彼の描く絵はいつも深い色合いで、きっとこの島がその瞳を愛しているから、彼の身体にはシルシが宿ったのだ。広い窓から見える聖夜らしい光の数々も、名前の瞳に映ってしまえば別段珍しいものとも思えない、青年はやはり笑顔を保ったままだった。

「でもクリスマスに部屋で2人きりなんて、良くないことが起こりそうだよね」

暗い青が絵に重なり、ニスのにおいがまた部屋に広がっていく。砂の混ぜられた絵の具はキャンバスを確実に厚くしていった。凡そ人間を描いているとは思えないような、中央に暗い色の重ねられた何かと、淡い背景だけが描かれた絵。少年は手を止めて男を見ると、傍らの椅子に置かれていたバッグからチューブを数本取り、絵の具を広げた。ペインティングナイフが木のパレットと擦れて音を立てる。

「そんなこと、少しも思ってないくせに」

粘着性の高い音を立てて混ざっていく絵の具を、少年は気だるそうに見つめた。その先に見える隣の画板、立て掛けられたキャンバスの中では、同じ椅子に座り、片膝をかかえ、口をひきむすんだ状態でこちらを睨んでいる少年が、繊細な色と筆遣いで描かれている。その視線に怖気付くように、少年はパレットへと瞳をずらす。
ヘッドと呼ばれる男の描く自分が、名前は何故だか少し苦手だった。

「とりあえず、今日中には描き終えてくれると嬉しいかな。俺だってさすがに疲れてきたし、何よりきみからプレゼントが貰えないっていうのは、悲しいからね」

夜が更けていく。少年がペインティングナイフを使って厚い絵の具を削り始めると、絵の中の男は少し唇を歪めた。

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