長いチャンピオンロードを抜け、リーグの入口にあるポケモンセンターで一息つく。母のいるあの街を出てから随分と時間がかかってしまったが、あとはこのリーグを勝ち抜けば、俺のポケモントレーナーとしての夢はまた1つ現実になるのだ。

「お前も、あの頃はまだ可愛かったのにな」

そういって隣に立つ大きな身体を見上げれば返ってくる視線。彼は気に食わなかったのか、昔と違う大きな爪で俺の頬をつついてくる。

「ちょ、切れる切れる!悪かったって、今はすっごい格好良いよ!」

そう言いながら長く鋭い爪を手のひらで覆い、そっと頬から遠ざけた。温度を持たないそれは少し不格好になっていて、今までの長い戦いを思い出させる。

そう、あの時あの街で偶然にも出会った小さな彼は、今やこんなにも大きく成長した。俺と彼しかいなかった旅の仲間だって、数え切れない程に増えた。俺もきっと、あの街を出た時の幼く弱い、泣いてばかりの俺とは違う。俺だってきっと、強くなっている。

「…頼りにしてるぜ、相棒」

太い首の辺りを軽く叩くと、リザードンはいつもより力強く、一鳴きを返してきた。










彼の言っていることはいつだって完全には分からなかった。
けれど彼がオレやオレと同じ奴を見てリザードンと言うからオレはリザードンなのだろうし、熱を吐いた時にかえんほうしゃというから、これをかえんほうしゃというのだろうことは容易に想像がついた。
そして相手を倒し強くなっていく度に彼が笑ってオレを撫でるから、オレはいつだって、どんなに相手が綺麗でも、どんなにオレの身体が重くても、たたかうのが良いことなのだろうと、なんとなくそう感じていた。

彼がサーナイトという奴をを仲間にしたばかりの頃。彼女に、彼のことばを理解出来る私を羨ましく思うか、と聞かれたことがあった。彼女のような奴らは何故だか、彼らの話すことばを理解出来るようなのだ。

けれどオレはそのことを別段羨ましく思ったことはなかった。

今まで、それこそオレも彼もまだ小さかった頃からずっとずっと一緒にいるのだ、彼らのことばが分からなくても、彼の考えていることくらい、オレにはわかる。そう言うとサーナイトはそう、とだけ応えて、表情を変えずにボールの中へと帰ってしまった。オレからしてみれば彼なんかより、彼女の考えていることの方がよっぽど理解出来なかった。


「お前も、あの頃はまだ可愛かったのにな」

長い洞窟を越えた所にある今まで建物と良く似た、けれど圧倒的に大きい建物の中、彼が複雑そうな顔でオレを見上げて来るので、オレはかつてオレがヒトカゲと呼ばれていた頃に彼が良くしてくれていたように、大きくなった手を伸ばして彼の頬を撫でる。彼はふざけて笑った後、いつものように優しくオレの指を握った。

確かにオレ達は随分変わった。彼を守る仲間も、随分増えた。けれどこの胸の中にある、彼について行きたい、彼の喜ぶ姿が見たいという気持ちは、どんなに時間がたってもどんなにオレの姿が変わっても、初めて彼と出会ったあの街のあの時から少しだって変わりはないのだ。

「…頼りにしてるぜ、相棒」

いつも変わらない彼の体温に、いつもと同じように声を返した。



幸福な聾者達
(その耳を潰してしまえ)

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