オンシジューム

「今日の資料持ってきたか?」

イヴァンがエレベーターを待っているとギルベルトが声をかけてきた。

珍しい。

会議に来ることもそうだが、彼やルートヴィッヒなら事前にしっかり準備してきて忘れるなんてことなんてまずないのに。

「持ってるよ」

「コピーしたいから貸してくれ」

もしかして知らないのだろうか。

今回は量が多いのだ。

「今からコピーじゃ量が多くて会議に間に合わないよ。僕が隣に座って見せてあげる」

「え、いやいい。イタリアちゃんとか日本とかイギリスとかフランスとか他にも」

「イタリアくんは遅刻してくるし日本くんは自分が困るのにまるごとくれちゃいそうだしイギリスくんはまず最初に皮肉を言うしフランスくんにはお尻を触られるかもしれないけど本当にいいのかな?」

「あー、わかったわかった。ロシアの見せてくれ」

観念してギルベルトは折れた。

イヴァンは満足そうに頷く。

ちょうどその時エレベーターが到着した。

「おっ、エレベーターが来たみたいだな!」

ひょい、と今来たばかりのアルフレッドが先にエレベーターに乗り込む。

「アメリカくん、僕達が先なのに」

「あ、なんだロシア。いたのか、見えなかったよ」

悪びれなくアルフレッドは言う。

その時ギルベルトは見た。

うねうね動くマフラーを。

その先は言うまでもないだろう。

アルフレッドの犠牲を尻目に、ギルベルトはさっさとエレベーターに乗り込んだ。

イヴァンも続けて乗り込む。

「ちょっと!ひどいじゃないか!」

つい数秒前までのびていたアルフレッドも扉が閉まる直前に滑り込んだ。

扉が閉まるとエレベーター内には寒気と嫌な空気が充満した。

お、俺様関係ないし早く出たい。

ギルベルトが早く早くと念じているうちにエレベーターは何事もなく目的の階に到着した。

アルフレッドが真っ先に飛び出して会議室に向かい、

彼に続いて二人は会議室の扉をあける。

「あれ、ドイツくんがいない。一緒についてきたんじゃないの?」

「あれ、いってなかったか。ヴェストは体調悪いから無理矢理休ませた」

へぇ、と言ってイヴァンは手近な席に着いた。

ギルベルトも大人しく隣に座る。

「それじゃあ、大体揃ったことだし会議をはじめるんだぞ!資料の53ページを開いてくれ!」

アルフレッドが一番前で声を張り上げると、ページをめくる音が続く。

イヴァンも机の上に資料をとりだしてページをめくった。

「では図を見てくれ!一昨年から今年にかけてのデータなんだが年々…」

アルフレッドが説明を始める。

しかし、ギルベルトは説明を聞いているどころではなくなっていた。

「おい、ロシア。顔近い」

資料を見ようと顔を近づけてきたイヴァンを手でぐい、と押しやる。

「何企んでやがる。会議に集中しろ」

「ううん。集中してないのはギルベルトくんのほうじゃないかな、顔も赤いし緊張してる」

「そんなことねぇ!ただ思ってたより近かったからな…慣れてねぇんだよこういうの…」

しどろもどろになって言葉が尻窄みに消えていく。

「期待してるの?こんな場所なのに」

「何言って…!!」

ぐっ、とイヴァンの顔が近づく。

すぐに離され、頬に触れていた温もりが消えていった。

「…お前、こんなところで」

「誰も見てないよ」

イヴァンに言われて辺りを見回すと近くにいる人は寝ているか資料を見ているかアルフレッドを見ているかで、こちら側を気にしている人は幸いにもいなかった。

だからといってイヴァンの悪戯を許す気はない。

睨み付けるとイヴァンは困ったように笑った。

「続きは夜だね」

「…しねぇからな」

今夜は長くなりそうだ。













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