好きって言って

カチャカチャと食器の音が鳴るなかでイヴァンが口を開いた。

「ねぇ、ギルベルトくん。僕のことは好き?」

「嫌いだな」

即答。

もちろん決まっている。

「イヴァンの近くにいるだけでまつげ抜けちまうぜ…」

「あ、じゃあギルベルトくん。ちょうどよかったです。新作のつけまつげがあるんですけどよかったら」

「いらねぇ」

これにも即答する。

菊は笑いを堪えながら差し出したつけまつげのパッケージをカバンにしまった。

近くで見ていたフランシスとアントーニョはもう吹き出している。

悪友どもを一発くらいは殴ってやりたくなったが食事中なので大人しく座ったままでいた。

というかなんでつけまつげなんか持ち歩いてるんだ。

「町で何か配っていたのでティッシュかと思って受け取ってよくみたらつけまつげだったんですよ」

ギルベルトの何か言いたげな視線に気づいて菊はそう付け足した。

「これならまつげが抜けても安心だね、ギルベルトくん」

イヴァンがにっこりと笑う。

なんだか恐ろしく、寒気がした。

「もう一度質問するよ。ギルベルトくんは僕のことは好き?」

嫌いだと言いそうになったがイヴァンの目は笑っていなかった。

瞬時に凍りつく背中。

もしかしなくてもイヴァンは怒っている。

目は口ほどにものを言うと言ったものだ。

その目が雄弁に語っている。

嫌いだと言われたことをまだ根にもってるのか?

今までは悲しそうにするだけだった。

でも今は違う。

ということはまさか。

付き合い始めたからだろうか。

でもだからってこんな人がいる前で言わせるなんでどういうつもりで……

「これは牽制だよ」

黙ったままの俺を見て、イヴァンは口を開いた。

「ギルベルトくんの口で皆に伝えて欲しいんだ。悪い虫がつかないように」

は、と息を吐き出す。

イヴァンが怖い。

いつもとは違う。

そんな異様な雰囲気を感じとり、その場にいた国も、人も俺達二人に注目する。

「ほら、好きって言ってよ。君に拒否権はないよ」

背中に汗が伝う。

観念して俺は一言呟いた。

「…Я люблю тебя」

ざわざわと周りが騒ぎだす。

ついに人に知れてしまった。

こんなにも早く。

「うん、合格かな」

周りにバレることの心配事などイヴァンにはないようだ。

恥ずかしくてイヴァンから視線を逸らすと、ふとある女性と目が会う。

イヴァンの妹ナターリヤだ。

次の瞬間俺はその場から逃げ出したのだった。





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