嘘泣き

二つの膨らみが背中に押しつけられる。本来なら喜ぶべきところなのかもしれないが、ギルベルトにとっては嬉しくなかった。あからさまに嫌そうに後ろを振り返るとにこりと微笑まれる。

「どけよ、重い」

「嫌」

笑顔に黒いものが混じる。あぁ、怖い。もう気にすることなく仕事をしてしまおうと手を進めようとしたとき廊下から、足音が聞こえた。アーニャがひっと小さく悲鳴をあげて机の影に隠れるように俺の足の間に入り込んだ。

「あ、ちょっ、お前」

ガチャリと扉が開き彼女の弟が入ってくる。キョロキョロと辺りを見回して一言姉は、と聞くのでここにいるといってやろうかとも思った。しかし、涙目になってすがるような目で見つめられてしまうとそんな気にはなれなかった。見ていないと嘘を言ってやると弟は特に疑うことなく大人しく部屋を出た。

パタンと閉まったドアを見つめてアーニャがふぅと息をつくと、足の間からずいっと顔をだしてありがとうと礼を言う。涙はもう出ていない。最初から泣いていなかったような晴れやかな表情だ

「さっきの嘘泣きだっただろ」

「ふふ」

女の涙って怖い、そう思ったギルベルトだった。

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