とける

「お前が好きだなんて言ったのは嘘だ、嫌いだ、大嫌いだった」

「俺の事は忘れろ」

そう言ったのは一週間前の事、一方的に別れをつげられてそれからは顔をあわせることもなくなった。彼が部屋から出ることはほとんどなく、鉢合わせしそうになるとすごい勢いで逃げていく。なにか怒らせるようなことをしただろうか。話すことができなければ仲直りのしようがない。ルートヴィッヒに手紙を渡してもらえるように頼んでみたけれど、手紙は開封されずに返された。すまない、と謝る彼を前にイヴァンは途方にくれる。唯一接近を許された弟以外に連絡手段はない。携帯のメールも電話も弾かれるし家の電話にはイヴァンを警戒してか、誰からの連絡でも出なくなった。残された手段がなくなり、無駄に時は過ぎて一週間。イヴァンがいつものように彼の家を訪れるとルートヴィッヒは暗い顔で教えてくれた。

「兄貴はもういない」

その言葉を聞いたとき、すぐには受け入れられなかった。ルートヴィッヒがなにか続けて言うのを遮って、ギルベルトはどこにでかけたのかと聞いた。彼は首を横にふって、再度事実を口にする。彼が消えたのは紛れもなく事実なのだ、と。

家に帰り、ひとしきり泣いた。彼は自分がいつ消えるのかわかっていたのかもしれない。イヴァンはそのことに全く気づかなかった。なにもしてあげられなかったことが悲しくてたまらない。それでもなんとか涙を止めて、洗面台に向かった。いつまでも泣いているわけにはいかない。顔を洗い終えると水をとめて前を向くと涙でぼやけていた視界がクリアになっている。鏡の中にうつった赤紫の瞳と目が合った。また視界がぼやけていく。あぁ、僕はなんてことを。後悔しても、もう遅かった。


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