アイリス

夜、寝ているとイヴァンが黙ってベッドの中にもぐりこんでくることがあった。

何かされるんじゃないか、そんな風に身構える。

しかし、何かすることなくイヴァンはただ一緒に寝るだけだ。

朝起きてみると黙って起きていってしまう。

ギルベルトは思いきって聞いてみることにしたのだ。

「なんでお前黙って入ってくんだよ、ベッドに」

え、と声を出してぽぽぽっとイヴァンの白い頬が染まった。

「だって起こしちゃ悪いし」

気まずそうにイヴァンは言う。

「起こせよ。あと、聞きたいのはそこだけじゃねぇ。なんで何もしてこないんだよ」

「…してほしかったの?」

「そういうわけじゃねぇ。俺とのこと、飽きたんじゃねーのかって」

「え、違うよ!」

手をブンブンと音が出るほど振り、イヴァンは否定した。

そんなことあるわけない。

「ただ壊してしまいそうだったからなんだ、君を」

最後の夜、イヴァンはギルベルトの首を絞めてしまったのだ。

息ができなくなってもがくギルベルトを見るとどうしようもなく興奮して自分を抑えられなくなっていた。

もっと傷つけて痛めつけて。

傍から離れられないくらい酷い状態にしてしまいたくなった。

逃げ出そうなんて考えないようめちゃくちゃに。

それは彼がかつて家族と引き離され、ロシアを憎んでいた時期にロシア国内から何度も逃亡を繰り返した事が一つの原因かもしれない。

力でねじ伏せないと、どこかに逃げてしまう。

そんな気持ちがどこかにあるのだろう。

「壊しちまえよ」

手首を掴まれギルベルトの首筋に持っていかれた。

指先に柔らかい肌が当たり、ぐっと押すとギルベルトの表情が歪んだ。

「や、やっぱり駄目!」

どんっと力一杯突き飛ばす。

またやってしまった。

せっかく触れないようにしていたのに。

「…俺はお前に構ってもらえないくらいならめちゃくちゃにされちまったほうがマシだ。ずっとずっとウザいくらいに付きまとってた癖に、今更離れるなよ。」

そこまで言うと首に手を当てて咳き込みだした。

苦しそうな声をあげ、目は潤んでいる。

「嫌だよ、やっぱりこんなの間違ってた」

彼の背中を必死にさする。

「はは、やっと自主的に触ったな」

ニヨニヨと意地悪な表情を浮かべて赤い瞳が見つめてきた。

ぱっと手を離そうとすると、その手に指を絡ませてくる。

「壊れちまってもいいから俺様に構えよな。寂しいとそれこそ死んじまうぜ」

「なにそれ、ウサギ?」

とうとう諦めて、抵抗をやめた。

ギルベルトの白い肌が蛇のように巻き付く。

「あぁ」

もう僕は彼から逃げられない。





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