「三人なんて、なかなか出来ない経験ですよ」
「そういう趣味ねぇよ」
ついに傍観を諦めたらしい雪見の声が、もっともな答えを告げる。
そしてそう思うならさっさと止めるか追い出すかしたらいいものを。
雪見はもしかして、三人でする趣味はなくも他人事を見て楽しむ趣味でもあるということだろうか?
そういうのを生身に、しかもよく見知った人間に求めるのはやめてくれと批難をしてもみたけど、本人には否定されるし、分かっていて言うなって逆に怒られた。
そう、分かっている、それは違う。
巻き込むなというのもあるけれど、彼が干渉して来ないのは、何事も深くは追求せず、気にしない、三人が三人、マイペースで居られる、それが初めから私たち三人の関係だったからだ。
友達以上で、もしかしたら仲間以上でもあり、男と女だけど、恋人になるにはどこか少しずれてしまっている三人。
私と雷光がどうなろうが、雪見と私がどうなろうが、ぶっちゃけ雷光と雪見がどうなったって、どんな事実が出来ても、結局精神的に仲間以上恋人未満から抜け出すことなんて思いもよらない、微妙な関係。
“泣く顔が見たい”なんてアブノーマルな趣向に私がついて行けないから雷光を拒絶してはいるが、でも彼が私を恋愛対象としてこれっぽっちも好いていないらしのにこうして押し倒してきたり、先輩どうですかなんて事もなげに誘うのは、見方によっては何の不自然でもないんだ。
雪見は雪見で、背後の痴話事情を全く気にする感じが無いのも、理解出来ること。
やるせない。
私だって恋愛感情なんかじゃないけれど、何をされても誰も嫌いにはなれない。
知っていて、雷光は嫌がらせをしてくる。
そして雪見もそのことをわかっているから、雷光を止めない。
私が憎むくらい雷光の行動を嫌うようだったら雪見は絶対割って入るし、そもそも雷光がこんな風にちょっかいを出してくることはない。
結局は自分のせいか。
いや、だとしても、いくらなんでも。
止めようぜ雪見……。
深く思案に走っていた間も、雷光は相も変わらず諦め悪く、雪見を誘い続けていたようで。
埒があかずにまだやり取りが続いている。
「先輩がまざってくれるなら、今日は散らかした分を私がちゃんと片付けて帰りますよ」
え、何それ。
ある意味乙女の死活問題が関わってるわりには軽すぎる交換条件に、異議を唱えたが無視された。
大変不服だ。
雪見も、それはあたり前だろなんて言ってはいるけれど、雷光の口車を否定しきれていない上に私が襲われることを前提に話が進められている点で、すでに流されている気配がする。
「あれ、ご不満ですか? では、お好きな方を譲るっておまけつきで如何でしょう」
待て、今度は重過ぎることを簡単に言ってくれるな。
私の身体なのに私に決定権はないらしい。
あったらまず、どっちも遠慮するのだけれど、というか、最初に決定権があるべきなのだけれど。
私が抗議の目を向ける前に「なんだそりゃ」と雪見の声がして、直後、ギ、と椅子が軋んで雪見が初めて仕事机から離れたようだった。
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