「意外と分かりやすいよ。嬉しい時には目を細めるし、怒った時には無口になる」

 ##name_2##さんは僕本人ですら気付いていない些細な癖を勝手に暴き続け、それだけで会話の主導権を握った気になっているよう。
けれど――いつもそうやって無駄な会話を繰り返すだけで、彼女は彼女自身の核心には決して触れようとはしない。
 いつもその先の核心を口に出すことを怖がっているのが僕には手に取るようにわかった。

(臆病な人…)

 僕から囚われて行くのを待っている態勢。
 それだけ、##name_2##さんが先に落ちていることは明確なのに。

「いつも僕のことを見てるみたいに聞こえるよ」

 強気を気取っても恋愛感情を伴った少女はとても脆いと知りながら付け込む僕にとって、嘘だとか本当だとか、そんなことはそろそろどうでもよく、口調を隠すことも意味のないことになっていた。
 比べて##name_2##さんの方は、駆け引きをしているつもりでも余裕と同じくらいにぎりぎり感を見え隠れさせていて、立場逆転に気づくどころじゃない。

「そう思う?」

 例えば、凡人には分からない程度の微かさだとしても、染まる頬の色すら隠せないでいるあたりとか、言葉の上では上手く切り返してもそれでは意味がない。
 僕は声を上げて笑いそうになるのを我慢した。

「##name_2##さんは、焦ったり緊張すると唇を噛むんだよね」

 言われた先から無意識に下唇を噛む##name_2##さんがとても愛らしい。

「相澤くんは…」

 同道巡りももう飽きるころだ。
 彼女の思惑通りに僕が折れたと言えばそれまでだけれど、込み上げる笑いを耐えられなくなったというのがこっちの本心。
 眼鏡に手をかけるふりをして緩む口元を隠した。

「##name_2##さんって、本当に僕のこと好きだよね」

「……」

 硬直した彼女は、僕から近づいても反応一つ示さなかった。

「唇噛み過ぎだよ」

 プライドの高い彼女の性格上、一番嫌味に聞こえそうな言葉を言いながら眼鏡を外して横に置き、赤くなった唇を消毒するには少々荒過ぎるくらいに舌で舐め取ってキスをした。
 その時初めて彼女は僕を拒んだけれど、否応無く無理矢理腰を引く僕の腕に、最終的には諦めてもたれる。
 落ちそうになった彼女をそのまま腕で支えてやったにも関わらず、##name_2##さんは片手で僕の襟元を掴んで自分の身体を保った。

「…もっと可愛く袖とか掴めないかな」

 両手で襟を掴み直した##name_2##さんは、視界がぼやけるくらいに僕の近くでニッと口の端を上げた。

「本性みっけ」

 けたけたと笑う##name_2##さんを抱えて、退屈なだけだった表の生活に何かとてつもなく面白いものを手に入れたような充足感が、意味無く僕の全身を包んでいった。





fin





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