「で?付き合ってくれるの?くれないの?」
もちろん卒業してからでいいけどと、さもついでのように##name_2##は話を加えた。
「付き合うわけないだろ」
「じゃあやっぱ浮気狙いか…。うんまあそれはそれでよし」
一度断っただけではどうにもならないとは思っていたが、やはり話がどんどんとあるまじき方向に向かう。
まるで浮気を好むような言い回しは、おそらく必死の裏返し。
若気の至りは……恐い。
「##name_2##…」
唐突に唇に触れたやわらかな感触。
俺の言葉が終わるのを待たずにキスなんてするもんだから、嘆息が違う意味の溜息に変わる。
「既成事実」
「おい、さっき卒業してからって言ったの誰だ」
「じゃあ卒業してからならいいの?」
唇を触れ合わせるだけのキスは子供らしいものだったが、首に腕を回したまま絶妙な距離を保つ##name_2##の仕草は、紛れも無い女のものだ。
「そういう意味じゃなくてだな…」
「墓穴掘った」
仕向けたんだろうと##name_2##を睨み返す。
「……ごめんね、嘘だから」
自分から既成事実だのなんだの騒いでおいて、今更嘘も何もあったもんじゃない。
事実そうやってまた、俺が止めないのをいいことに唇を重ねてくる…。
息を吐けばそれはやはり自然と溜息に変わった。
「卒業してから考えるよ…」
何を血迷ったのか、俺の答えは酷く前向きなものだ。
フォローにも何もなっていない。
「##name_2##…?」
一瞬驚いて、そして嬉しそうに笑った彼女の顔を見た瞬間、今まで冷静だった胸に予感とも呼べるざわめきを感じ、俺は為すすべを無くした。
俺の予感は……よく当たるんだ。
アトラクションのものとは異なる白い蛍光灯の白い光が差し込んで、##name_2##の仕組んだ時間が終わろうとしていることを告げた。
暗がりに居る時だけ成立する関係。
だがいつか俺が冷静になる時が来ても、##name_2##が火遊びに飽きる時が来ても、おそらく俺は大して傷付きはしない。
後ろめたく思うことはあっても、おそらく、俺は。
##name_2##にしてみても、仕掛けた本人なのだから諦めもつくというものだ。
……始まったばかりなのに終わりの事を考えてしまうのは、俺が若くない証拠に思え、自嘲気味な笑いが込み上げる。
が、皮肉にも光に当たった途端触れていた手を放さなければならないこの状況は正に、彼女の好きな“若気の至り”――。
(俺は若くないのに…)
明るみに出たら目が覚めるかとも思った。
が、俺が彼女の術中にはまったままでいることは誰よりも俺自身が理解していた。
現状に幸せを見出だせる彼女の未来は明るくても、人生踏み外した感を否めずにいる俺の未来は多分――とても暗い。
だがとても、心地良いものだと思った。
fin