吐き気がすると思ったのは一瞬で、すぐに私はお手洗いに走った。口から出てくるものは何もなくて、ただただ気持ちが悪かった。胃液さえも出そうで、そのまましゃがんでじっとしていたら、様子を見ていた大輝がやってきた。表情はかなり焦ってて、逆にこっちが落ち着いてしまった。

「大丈夫か?」
『うん、大丈夫。何だか最近調子悪くて』
「……」
『ご飯もあんまり食べてないけど…大丈夫』

そう言った私を真剣に見つめてから、大輝は私を病院へ連れていくことにした。内科の先生に診てもらって、何ともなかったら良いなって、私を励まし背中を擦ってくれる大輝がとても頼もしかった。

「症状は?」
『気分が悪くて…吐き気と目眩が酷いです』
「…うん」
『何かわかりますか…?』
「えっとねぇ……ちょっと産婦人科行ってみてくれるかな?」
「は、?」
「妊娠の可能性があるから」



「はい、陽性ですね」
『ということは…』
「おめでとうございます」


晴れやかな声と顔が、私たちに生命の誕生を伝える。大体妊娠二ヶ月に差し掛かった頃。小さな命は私のお腹で必死の成長を遂げていた。案外、妊娠というものは全く気付かないのか、と楽観的なことを考えながら、不安で不安で仕方がなかった。とりあえず、お二人に説明致しますね。丁寧な言葉はまた、私たちを小さく祝福するのだった。


それからの大輝は異常だった。

「今日はつわり大丈夫か?」
「体ダルくねぇか?」
「おい、料理は俺がやるっつってんだろ」
「家事はいいから休め」
「早く寝ろ」

いつもと立場が逆。至れり尽くせりの毎日。大輝は産ませる気満々だった。それでこの張り切り様、出産の時には私に言い聞かせる様に大輝が必死にラマーズ呼吸をする様子が目に浮かぶようだ。思い浮かべたら笑えた。

別に産む気がない訳じゃない。むしろ産みたい。だけど大輝は、まだ、バスケを目指してる。大学でバスケに没頭してるのに、私ともう一人を養えるのか…最悪親の仕送りも視野には入れるけれど、私の実家は遠いし、とりあえず挨拶が先なのかな。いろいろと先が見えない不安が、私に容赦なくのし掛かる。

「おい、考え込むなよ。母親は笑ってろ」
『…うん』
「お前のことだからどうせ金とか俺のこととか考えてんだろ」
『……』
「違うか?」
『あってる』

図星を指されて言葉に詰まりながらも、やっぱり理解してもらえてるのは嬉しい。表情が緩んだ私を見て、大輝も顔を笑顔に変える。ああ夫婦って、こうやって似ていくのか。


「金はどうしようもねえけど、出来る限りは働く。んで、挨拶行くぞ。もちろんお前ん家が先な」
『はい』
「…お前の親父って怖いか?」
『かなり』
「うげ、マジかよ」
『頑張ってよ、お父さん』
「なっ誰がおやじ……か」


何だかくすぐったい感覚だった。本当に、本当に何もかもが新しくて、暖かくて、不思議で。もしかしたら、こういうことを、しあわせと言うのかも。


鳴り響くインターホン

(初めまして、俺、なまえ…さんとお付き合いさせてもらってる青峰大輝って言います…っ)
(やだ!大輝が敬語!)
(わ、笑うなっつーの!)

END

*****
友実様リクエスト“青峰夢で大学生ぐらいの設定で、妊娠発覚”です。
あまり大学生っぽくなりませんでしたが、私も妊娠発覚みたいな内容書こうと思ってたのでちょうど良かったです←
お祝いの言葉もありがとうございます。また見に来てください(´ω`)リクエストありがとうございました!

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