眠ったのに起きるという変な現象に襲われることがある。鳴り響く時計にチョップをかまして、私は目を覚ます。それからご飯を食べる。

『いただきます』
「邪魔すんぞ」
『あ?』
「メシ食いに来た」
『…またかよ』

そう言ってやって来たのは青峰。朝食と夕食は寮から出るのだが、私は自分の食べたいものを食べたくて自炊、青峰は何となくこっちのが良いとたかりに来るようになった。


『少し多目に作ってはあるけど私の食費かさむんだから止めてよ』
「へーへー」
『…はあ』
「そういやお前朝練だろ」
『……』
「サボりかよ」
『お前もな』

この夢の中ではどうやら私は女バスに入っているようだ。何となく覚えている体が気持ち悪い。夢の中での私のことは、大体私の記憶と会話から把握していく。ランダムな世界を満喫するのには結構な苦労が必要なのだ。

「サボりついでに学校サボるか」
『何でそうなるの』
「いーじゃねぇかよ、授業中寝てるくせに」
『出てるだけましなの』
「たまには昔みてぇに昼寝しようぜ」

昔みたいに、というのは、多分幼馴染みなのだろう。青峰はにやりと私を見る。別に嫌な訳じゃないむしろ一緒に寝てみたい気持ちもある。というか、夢の中ではあるけど余りにリアルで黒バスのキャラに未だ触れていないからちょっと興味あるというか…どうせ夢だし学校休むか。結論に至った私の顔に考えが出ていたのか、青峰がおし、と一言溢す。

「決まったんなら寝るぞ」
『まだ眠くないー』
「俺は眠い」
『理不尽だ理不尽だ』

ベッドの方まで引きずられてそのままベッドの上に青峰ごと倒れる。というより青峰にのし掛かられる。うげっと悲鳴を上げると笑われた。

『寝るならさっさと寝れ』
「うるせーな」
『うるさいのは青峰の方でしょ』
「寝る」
『……』

抱き枕みたいにお腹の辺りだけ抱き寄せられた。手から伝わってくる体温が気持ちよくて、お互い生きてるってことがわかる。夢なのにこの感触が生きているのだと伝えてくる。何かすごい。感動して、青峰の片手を弄りながらにやにや笑ってたら横腹掴まれた。

「うぜぇ」
『……』
「みなとの癖だよな、それ」
『ん〜?』
「手、よく弄るだろ」
『そうかな』
「おう」

青峰の黒い手が私の手をすっぽり覆う。でっかくてごつごつしてて、その手は私の手の甲を親指で優しく撫でる。気持ち悪いくらい優しい手付きで、漫画の青峰からは想像できない。漫画だったらがさつで乱暴でちょっと優しい直感男なのに。印象の上を行くドツボ。私の妄想すごすぎ。

「お前の手、肉付いてて柔らけぇから触り心地いいな」
『…一言余計なんだよなぁ』

とか言いながら微睡む時間はとても穏やかで気持ち良い。結構最初から思っていたけれど、私は最近夢から覚めるのが嫌になる。友達も居て別に不便はない現実世界より、こっちの夢の方が自由に思えて、だから現実より気楽に過ごせるこの世界が気に入ってる。

『…覚めなければいいのに』
「…ぐー……」
『寝たのか…』

夢の中のこの人たちがこの世界が夢だと知ったときどうなるか、なんて考えながら、私はまた眠る。戻ってしまうとわかっていながらも、必然の様に瞼が閉じられた。


名残惜しい温もり

END

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