苛められるのは好きじゃない。
私は優しくされるのが好きなの。
だから私は黒子くんが好き。
優しくて常識があって結構度胸もある黒子くんが好き。
今日の黒子くんは部活の練習二倍にされてたなあ。
大丈夫かな、水分補給しないと死んじゃうんじゃないかな。
ポカリ渡してあげたい。
タオルで拭いてあげたい。

でも、それは出来ないの。


「今日もバスケ見学に来たの?」
『……』
「テツヤ目当てに来られるの、鬱陶しいから止めてくれないかな」
『……』
「君はテツヤが好きなの?」
『……』
「好きなら尚更来ない方がいい」
『……赤司くん』
「何かな?」
『どうして貴方が直々に来るの』


上にある顔を睨み付ける。その顔は綺麗に笑っているけれど、中では黒いことを考えているんだと思ったらとても友好的にはなれない。


「主将だからね」
『それだけ?』
「テツヤの管理も僕の仕事だから」
『でも、邪魔はしてない』
「そうかな?迷惑かもしれないよ」
『……』


そうやって少しずつ人を不安にさせていくところも

「テツヤは優しいからね。迷惑なことをはっきりと伝えられるかどうかわからないよ」
『だとしても、赤司くんには関係ない』
「…あるに決まってるだろ?」

伸びてきた手が首筋をなぞるだけで感じる威圧感も、全部全部。

「テツヤが調子崩すと、勝利が遠退くんだ」
『……』
「君はテツヤには要らないんだ」
「………誰が、そんなことを言ったんですか、赤司くん」
『黒子くん』


指先をぴくりと動かしてから黒子くんを軽く振り返る。
なんだ、動揺するのか、この人も。


「僕は迷惑なんて一言も言ってないです。そして、バスケを見学なんて、黄瀬くんのファンの方も居るのに、今さら一人に主将が時間を割く必要が?」
「…テツヤ」
「はい」
「僕に楯突くのかな?」
「いえ、ただ僕は矛盾を指摘しただけです。……木下さん」
『…はい』
「これからも見に来ていいですよ。バスケに興味があるのなら、尚更です」


黒子くんは私の気持ちには全く気付いていないらしい。


「……テツヤ、先に戻ってて」
「はい。部外者に手は出さないでくださいね」
「わかってるよ」

細められた目が分厚い仮面の様だった。この人の感情は読めない。難しい。理解できない。
黒子くんが離れていく。今さらになって、震え出す。


「…さて、まい」
『………名前、呼ばないで』
「君が命令出来る様な立場だと?」
『ええ、もちろん』
「はは、面白い事を言うね……まい」


大きい声でも無いのに、名前を呼ばれるだけで驚いた様に肩が跳ねる。彼の声は冷たい。


「テツヤから離れろ」
『…いや』
「言うことを聞かないヤツは嫌いだ」


咄嗟に手を掴まれてギリギリと力を込められる。痛さに小さな悲鳴をあげてしまったけれど、言うことを聞きたくない。私はコイツの言いなりにはならない。だって許せない。私は黒子くんを見たいだけなのに、何で私だけ。

「何で僕が君にしつこいか考えてるみたいだけど」
『い、た……っ』
「そんなのもわからないの」
『離して…』
「教えてあげようか」
『、ぃっ』
「君が好きだから」


何て味気のない言葉。

それと一緒に激痛のプレゼントなんて、


ロマンチックの欠片もない。


君にあげるのは苦痛だけ


END



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