正直理解出来なかった。

取り柄のない私に構ってくれる彼が

私には理解出来なかった。


It exceeds profits.


どうしようもなく平均並みで
頭が良くなければ顔も良くなく
金持ちとかそんな特殊な設定があるわけでもなく
特に趣味があるわけでもない。

そんな私に緑間くんはたまに構ってくれて
毎朝見ているというおは朝占いの結果を教えてくれて
相性最悪な日でも話し掛けてくれて
その上気が向いたらラッキーアイテムを持ってきてくれるのだ。(大体おは朝占いのことばかりだけど)


彼と親しい(と私が思っている)高尾くんに話を聞くと、そんなこと誰にもしていないと言うし、そう言われてしまえば、私が舞い上がるのも仕方ないのだと思った。

彼に故意は無いのだと言い聞かせても、最近は意識しすぎてまともに会話できない時もある。

そして今日も彼は私の隣に立っている。朝から会うなんてなかなか無いのに。


「木下、あまりぼんやりしていると転ぶのだよ」
『あ、う、うん……ごめんなさい』
「少し顔色が良くないな…昨日はちゃんと寝たのか?」
『それはもうぐっすり寝たよ。緑間くんこそ、何だか調子悪そう』
「…今日は、おは朝占いが七位だったのだよ」
『あー…微妙だね』


話題は大体おは朝占いから進展して、いつも通り他愛ない話をする。
緑間くんの顔は何だか少し赤くて、本当に調子が悪そうだった。何だか何時もより息遣いが荒い気もするし…眉間に皺が寄ってるのは何時もだけど、うっすら汗をかいてるような……確かに今日は暑いけど、汗をかく程じゃない。


『緑間くん、今日体温測った?』
「、いや…測ってないが」
『ちょっとごめんね』

断ってから手を取る。何だかやっぱり普通の体温より高いかもしれない。少し驚いた様な声を出した緑間くんは、それでも黙って私のやりたいようにさせてくれた。


「…木下、大丈夫だ。今日のおは朝占いでは内容は良かった……それよりも、今日のラッキーアイテ、ム…」
『み、緑間くん!?』


緑間くんの声がどんどん小さくなって、それに連れて肩が近付いてきて、緑間くんとぴったりくっつくようになった。最初は恥ずかしくて離れようとしたけど、緑間くんがこんなに遠慮なく体重を掛けてくるなんて可笑しいと思って緑間くんを見上げると、辛そうに目を瞑っていて
そのままずるずる地面に膝をついてしまった。


『み、緑間くん!!緑間くん!!』
「……う…」


唸るように緑間くんは声を漏らす。辛そうな息遣い、どんどん荒くなる上に、汗の量が増えていく。


『み、緑間くん…っが、学校まで頑張って!』
「…う、う……く、」

肩に緑間くんの腕を掛けて、私の身長とは全く合わないからちゃんと立てないみたいだけどとりあえず起き上がらせる。引きずるように前へと足を進めて、学校を目指す。学校はすぐそこだもん、大丈夫。
少しずつ、それでも急いで私は学校へと緑間くんを引きずった。


***


「ふう、これでいい?」
『うん、ありがとう高尾くん』


そういうと高尾くんは笑っていいよ別に、と言った。
私が緑間くんを引きずっていると、後ろから来ていた彼が駆け付けてくれたのだ。


「真ちゃんも無理して迷惑かけてさー……ダメダメだよね」
『え、いや、私は…その……』
「何?迷惑じゃなかった?俺だったらもう関わりたくもないけどねー」
『その、』


高尾くんはすごく意地悪な顔をして私を見据えてくる。
正直言ってあまり居心地は良くない。

『……わ、私、緑間くんはすごくすごくすごいんだと思ってたんです!』
「…………は?」
『だって、バスケでエースで、いつも何だか運が良くて、周りから期待されてるし、頭も良いし、顔も良いって周りが騒いでて…』
「う…うん」
『でも、話してみると、何だか気難しい…けど思い遣りがあって、ちょっとおちゃめ……』
「……、」
『それにおしるこ大好きなんだよ?何だか、同じ人間だなあって、思えたの。最初は私なんかに何で構ってくれるのか、不思議に思ってたんだけど』
「…………っ」
『今は、普通に構ってくれるのが嬉しいの。理由はどうであれ』
「…っ、ぷは!あははははは!!」
『……?』


急に笑い出した高尾くん。膝を叩きまくっていて、すごく痛そうだけど、本人は気にせずに落ち着くまで笑い続ける。


「ひ、ふふ…っごめんね、真ちゃんをおちゃめ、とか…ふ、ふつう…とか言う人、なかなか居ないから……ぐ、ふはは…っ!」
『あ、あの……』
「あーー…落ち着いた。ごめんごめん。馬鹿にしたんじゃないんだ。ほーんと、真ちゃん見る目いいなーって思ってさ!」
『……?』
「さて、まあ構ってくれる理由は本人から聞きなよ。俺は邪魔だからもう行くね」
『はい、わざわざありがとうございました!』
「狸寝入りの人もね」
『?』
「な、!!」

高尾くんが扉をピシャリと閉めると同時に緑間くんが起き上がった。さっきより汗はかいてないけど、顔はさらに赤くなっている。

『み、緑間くん、寝てなよ…っ』
「…い、いや……さっきは、すまない」
『え?さっき?』
「道端で急に倒れたことなのだよ」
『あ、それは気にしなくて良いよ。緑間くんが無事で良かったから』
「…ふ、ふん……お人好しなヤツだ」

何だか何時もより歯切れが悪いみたいだな……まだぼんやりしてるのかな。
伺うようにずっと見ていると、緑間くんは居心地悪そうに視線を逸らした。


「さ、さっきの」
『うん?』
「理由、聞かないのか…?」
『んー……聞きたいけど、言うかどうかは緑間くんが決めることだから』
「そ、そうか」
『うん』

緑間くんの重ねている手がそわそわと動く。緊張してるのかな。


「お前と居ると、楽しい…」
『…、え』

聞き取れた言葉を何度も何度も繰り返し再生する。内容を理解しても、びっくりして反応が遅れてしまった。

「お前と居ると、キセキの世代だとか言われて持て囃されている自分じゃなく、一般高校生として生活が出来る…」
『……』
「それだけじゃない。お前は…まいは俺を変だとは言わないし、それに、受け入れてくれる」
『そ、んな…』
「俺はお前が気に入っているのだよ」


緑間くんの重なっていた手が私に向かう。そのまま引き寄せられて、緑間くんの胸に引き寄せられた。でも、恥ずかしさとかは無くて、それが自然みたいに安心できた。でも、触れた箇所は熱を持っていく。私の顔は、真っ赤になっているだろう。


「木下まい」
『…は、い』
「お、俺と……付き合うのだよ!」
『み、緑間くん…もうちょっと、言い方が…』
「う、うるさい!」
『……じゃあ、付き合ってあげません』
「!!!」


本気でショックを受ける緑間くんに、どんどん顔がにやける。緑間くんは、本当は可愛い人なんだと実感できる。


「つ、つ…つき……」
『緑間くん、好きです』
「!?」
『…付き合ってください』
「っ………し、仕方ない、付き合ってやるのだよ!」

不器用な彼は、誰が何と言おうと可愛いと思う。


END



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テーマ「人外ファンタジー」
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