何時からかアイツが当たり前以上の存在になっていた。
最初はそうだ、小学校の時に、まいがコケて泣き出したそんな日。あまり泣かないまいに戸惑って、でも外にずっと居るのも良くないと思って、必死に目を擦っていたまいを、手を引いて家まで連れて帰ったのが、始まりだったのかも知れない。
それから、たまに手を繋いで帰るようになって、その日から俺の目に映る景色は新鮮になったみたいに鮮やかだった。毎日が楽しくて、隣でまいが笑ってるのが嬉しかった。
小学上級生になった時だった。まいが部活終わりに落ち込んでたのを慰めた。悪気なく年下が下手だね。と言ってきたらしい。その時は誤魔化せたんだけど、やっぱり悲しいと落ち込むまいの頭を撫でてやってた。
そんなことで機嫌が直るまいに呆れながら、嬉しい自分を何処と無く感じていた。
中学に入ってから、俺達の関係が変わり始めた。
放課後に見当たらないまいを待っていようと、屋上で暇潰しをしていたら、まいが屋上に来た。俺を呼びに来たのかと思ったら、後から記憶にない同級生っぽい男が入ってきた。やり取りは触りくらいなら聞き取れた。所謂告白シーンだったらしい。まいは頭を下げながら謝っていた。
まいをはっきり女だと意識した。
幼馴染みは幼馴染みだと思ってた。
だけど俺は、まいを女として見てしまった。
そうして、俺の態度が可笑しくなった。
近寄られただけで冷たい言葉しか出なくなった。
思っても無いことばかり言うようになった。
ケンカもしない程離れてしまった。
そんな関係を加速させるように、俺はバスケがどんどん上手くなっていく。
他の奴らが比にならないくらい、どんどんどんどん。
それで虚しくなった。強くなって、相手と戦って、俺に敵う奴が居なくなって、周りが強くなるに連れて遠ざかっていく。こんなの、バスケじゃないと思った。
だから、まいにはバスケに絶望する前に辞めて欲しかった。そっちの方が、苦しくないと思った。
その内まいを名前で呼ぶことも止めた。名前を呼ぶと、俺の奥で何かが燻るから。どうしようもない本能が、抑えきれない様な気が、確かにしたから。
そうやって距離を取るのがまいの為だと思った。俺が何か仕出かす前に、綺麗な過去がそのままである内に、離れた方が良い。そう思っていた、のに。
なのに、なんで、まいは今、泣いてるんだよ。
俺が離れた意味はあったのか?
「…おい、」
数分躊躇ってから声を掛けた。
「何で、泣いてんだよ」
ぼんやりしてるまいは全く俺を目に写さない。嫌われたのか、どうしたのか。まいは何を考えてんだ。
「……泣き止めよ…」
『…………………………………だいき…?』
ああ、久しぶりに見た顔。すっげえ触りたくなる。
「泣き虫、泣き止めよ。お前が泣いてたら、どうしてやればいいか…わかんねえんだよ……」
なあ、やっぱ俺
「ほら、泣き止め」
『う、だ…だいきぃ……』
「誰かにいじめられたのか?コケたのか?」
『ばかああああ』
「悪い悪い、冗談だから、ほら、落ち着け」
お前が好きなんだ。けど、気付かれたらどうせお前は逃げるだろうから。
気付かないふりして、慰めさせてくれよ。
遠いな、遠い
END