ごめんと彼が言うので、私はダメだと返事する。
今も昔もずっと一緒。

ぬいぐるみを取り合って引きちぎられて泣いたときも、お使いに一緒に行くはずだったのに先にずんずん進まれて迷子になったときも、ちょっかいを出されて怪我をしたときも、帰りに群がる女子が私を突き飛ばして転んだときも、涼太はいつだってごめんと謝った。
もちろん彼が悪いということもあるけれど、だから私はその良心というものに取り付くのだ。
ダメ、許さない。そう告げたときの彼の焦りようは愛しく思える。純に信じるものだから堪えられず噴き出したりもした。

彼は私に甘い。もちろん周りの女の子にも甘い。そして自分が好んだ人間にはさらに甘い。そんなところに人は惹かれる。美しい見た目と甘やかしてくれる包容力、あとたまに見える色気。高校生は大人と子供の境で、そんな不安定に見え隠れする成長が堪らなく魅力となるのだ。

特に彼は肩書きも甘い蜜となる。

「ごめんって言ってるじゃないっスか!」
『許さないわ』
「仕方ないじゃないっスかー仕事なんスよ」
『だからって前々から約束してたじゃない』
「マネージャーが勝手に入れたんスもんっ」
『まだ新人なのにマネージャー?』
「試しにつけてみろって…あの人とは合わなさそうなんスけどね」
『ふうん』

砂糖とミルクたっぷりでクリーミーを通りすぎた甘さのカフェラテを口に流し込んでいく。匂いまで甘くてむせかえりそうになる私の隣で彼は必死に弁解中だ。私の機嫌が悪くなると思って必死なのだろうが、私はむしろ今は機嫌が良い。ほくそ笑んでやりたいくらいだが、一人ではないので出来ない。

日本で大人気のモデルさんは困った顔でこちらをじっと見つめる。眉尻を下げているこの表情は許しを乞うとき特有だ。居心地悪く待てを解かれるのを待っているみたいで、キレイな髪に少しだけ指を絡めた。

『でも今までにも何回かあったじゃない』
「それにも、いろいろ、事情が…」
『そればっかり』
「嘘は吐いてないっス!」
『事実はどうでも良いの。大事な部分は結果でしょう?すっぽかされた回数だけ埋め合わせをしてくれた?』
「で、きてないっスけど…これから」
『出来ないことは約束しないで?』

そうして押し黙ってしまった黄瀬涼太に時間は残されていなかった。ケータイの着信音が耳に響き、苛立った様子で電話に出る。呼び出しの言葉が耳に流れ込んでいる間に私は私の分ともう私との関係がないモデルとしての黄瀬涼太の分の料金を支払う。これにまた罪悪感が増し、しかしマネージャーのお小言を途中で切るわけにもいかず、結局私の思い通り。彼はまた一週間私への気持ちで思い悩む。
電話を切り終えた黄瀬涼太を背に店を出ると薄曇りの空がぽつぽつと小雨を降らしていた。小さな折り畳み傘を一つ取り出して振り向く。

「待ってよ、木下っち…」
『次、仕事この近く?』
「え?まあ、走ってくつもりっスけど」
『これあげる。今度埋め合わせよろしくね?』

大きな手に折り畳み傘を押し付ける。呆けて傘を握りしめる彼は少し滑稽で笑いを漏らすと、彼は真剣な目でこっちを見た。淡く寂しげな感情を見せながら。

「俺たち、付き合ってるんスか?」
『ええ、事実上』
「何スか、それ」
『ふふ、貴方を嫌ってはいないわ。貴方も私を嫌ってはいない。それで十分でしょう?』
「俺は、もっと、ちゃんと!」
『……ねえ、仕事、頑張ってね』

誤魔化すために笑んだ私を恨めしそうに睨むけれど、だってお互い様なのだから仕方ない。貴方っていつも誰にだって笑っていられる人だし、嫌いになる人なんてあまりいないし、そこにつけこむ人だっているんだもの。そんな中の私だから、自信がなくて、また貴方の優しさにつけこんで傷付けたりするのに、愛されてるなんて思えたらそれは自惚れ屋だろう。だから私は約束と共に一週間貴方の頭を占めることが出来たら十分。それ以上を求めるならそれ相応の、私が納得出来る愛情の計り方を教えて。


『さようなら、また今度』

濡れて帰る私にまた罪悪感。そうやって繋ぎ止める。ごっこ遊びでもちゃんと私は愛してるのよ。


ごっこ遊び


END



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