恋した相手を間違えたと思う。年下に片想いしてアプローチしてなかなか靡かない後輩に迫ってやっと付き合えるようになったのに、今さらな気がするが、本当に相手を間違えたと思う。

『一週間私に触ったら駄目ですよ先輩』

何で付き合ってるのにこんなに冷たいのか。


少しきつめのアイ


「可笑しい思わへん?」
「な、何かすいません!!」
「謝らんでエエねん。返事返してえや」
「すいません!すいません!」
『何後輩いじめしてるんですか、はやく練習再開してください』
「……」

ちょっと後輩に相談しただけでこんな冷たくあしらわれるし、なんなんやろホンマ。ワシ仮に彼氏やで、仮ちゃうけど。そんでもって、彼氏っちゅうたらスキンシップとかあれこれして、チューなんかもする仲になるはずやのに、逆に遠ざけられるってどういうことやねん。ホンマ分からん。

黙って自分の練習メニューをこなしていればまいの反応は何もないし、何や片想いの時より辛いかも知れん。
第一、ワシが惚れたんは後輩たち(特に桜井みたいな気弱なやつ)に見せる優しい笑顔やったり気遣いやったりで、ワシに対しては一切見せへんからほんなら好きになってもらってから大事にしてもらおう思っとったんに、付き合い出したらさらに笑いかけられんって可笑しいやろ。むしろワシだけに気遣ったりしたらエエんやとか思うとったんに。醜く他人に嫉妬しとる自分も嫌になってくるわ。


結局苛立ちに任せて練習しとったら後輩たちにビビられてもう今日は最悪やった。備品の片付けと体育館のモップがけを監督し、マネージャーであるまいの帰り支度を待つ。不満はあるものの惚れた弱味言うんかちゃんと家まで送らんと気が済まんから、一週間のおさわり禁止令が出てからもまいを送ることは欠かさんかった。
帰り支度が終わったまいが小走りに駆け寄って来るんを少し微笑ましく思いながら見とったら笑うな眼鏡言われてしもうて、もうそろそろへこんでエエですか。

別に話すこともないから無言で道を歩く。ワシは居心地悪いなんて思わへんけど、まいが喋って欲しそうにそわそわし出すから、仕方無く話題を振ったりして。大体はバスケの話になるけど、まいは不満そうな顔をせえへんからそれで十分なんやろう。

「…で、せやから重いもん運ぶときはワシ呼びいや?」
『……』
「返事せえ」
『私の仕事に手出さないで』

少しつり目気味の目がワシを睨むように見た瞬間、一気に堪えきれんくなってまいの手首を乱暴に引っ張り上げた。つま先立ちになって手首を痛がるまい。

「いい加減にせえよ」
『離して、』
「ワシだって傷付くし、触りたいとか思うんやで。今まで散々意味分からんワガママに付き合うてきたけど、もう我慢出来んわ」
『……離してよ』

切羽詰まったような声になったから一度離す。手首を擦りながら深く俯かれた。もしかして、強引にまいに迫ったからかも知れへん、と今さら思った。ワシが怖かったから、付き合うてくれてるだけなんちゃうか、とか嫌な考えしか浮かばんくて、とりあえず、まいがワシを嫌っとるんは明確やった。

「…ワシのこと、好きやないんやろ?」
『な、んで』
「ワシが嫌いやったけど、しつこかったから一旦付き合うて嫌われようって?」
『…っち』
「無理に付き合われても、嬉ししないねん、ワシ」
『違う!!』

一方的に喋っていたワシの声を遮るようにまいが大きな声を出した。こんな大声聞いたことなくて、若干ビビったワシを見上げる顔は今にも泣きそうで、真っ赤で、肩が震えとって、服の裾をしっかり握っとった。

『さ、触られたら、恥ずかしいの…!すぐ、真っ赤になるから、慣れるまで待って…欲しくてっ』
「……ぁー」
『…もう、きらい?』

私のこと。本気で泣きそうなっとるまいは不謹慎にも今まででいっちゃん可愛かった。ヤバい軽くハマりそうや。何この生き物なんやの可愛すぎやろ。わざとじゃないとこがまた最高に可愛い。

「なあ、まい」
『う…』
「名前で呼んでくれたらエエよ」
『はぁ…?』
「ワシのこと、名前で呼んでくれたら許したるで…な?」

ぎゅうっと背中に腕を回して抱き締めたらあうぅ、と呻く声が聞こえて、横にある耳が真っ赤になっとるから思わず耳元で、なぁ、ダメ?とかわざとらしく聞いてみたら、恥ずかしそうにか細く言うてくるからもうそのままでもエエと思えた。
やっぱこの子は手離せんなぁ、とか思ったりして、またあの泣き顔見たいわぁと思考を凝らした。


END



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