とてもきれいな手をしていると思った。だから、来やすく触れないと思った。


褐色の肌に被われていて、ゴツゴツしていて、爪も整ってないし、どこが綺麗なのとかよく桃井ちゃんに聞かれた。でも、これ以上綺麗な手はないと思う。この手がリングにボールを掲げるだけで、すごく絵になると思った。

「それって、変っスよー」
『変?私が?』
「んー、なんつーか…崇拝じみてるっつーか……」

何て言えばいいのか…悩む黄瀬を無視して私はマジバのポテトを頬張る。崇拝しているという言葉は少し合っているとは思った。だけど私のは完全な崇拝じゃない。きっと別の感情も混じっている。

「でも、それがいいんスよね?」
『別に嫌がられたら無理にでも止めれるけど、でも、気にしないでしょう、あの人』
「気付いてもないんじゃないっスか?」
『じゃあ好都合』
「…そうっスか」

呆れたみたいな苦笑をしてバーガーにかじりつく黄瀬。青峰も聞いたら呆れるのだろうか。だけど、私はやっぱり容易に降れてはいけない気がするのだ。彼の手は、大きくて暖かくて無骨で、今までの苦労や努力が見てとれて、いっそのこと緑間みたいにテーピングで保護していて欲しいくらいに価値がある。その手で触れられると、どうしようもなく自分がちっぽけに思えた。


「おい」
「あ、青峰っち」
『……重い』
「黄瀬と二人っきりかよ。俺にも奢れ黄瀬」
「イヤっス」

後ろから私の頭に肘を置いて話し掛けてきた青峰が隣に座る。その後、黄瀬を丸めて自分の分の注文を黄瀬に押し付けて、黄瀬が居なくなったのを見計らって私に向き直った。

「何で黄瀬は誘って俺は誘わねえんだよ」
『青峰にする話じゃなかったから』
「…どんな話だよ、それ」
『貴方の気付いてない話』

黄瀬に嫉妬する青峰に思わせ振りな事を言って誤魔化す。何の話って、私と黄瀬の間に成り立つ話なんか青峰のことぐらいしか今のところ見付かっていない。丁度良い相談役として、十分な活躍をしているだけだった。青峰は馬鹿正直にムッとして怒るだけで、何も言わずにふんぞり返って、帰ってきた黄瀬に蹴りを入れるだけだった。

「これ食ったら帰る」
『私はもう食べたから帰っても良い?』
「俺ももう食い終わるっスよー」
「そこは待ってろよ」
『だって、黄瀬』
「いや黄瀬は帰れよ」
「ひっど!」
使っといて何なんスかもー。批判をしながらごみを片付けて黄瀬は帰っていった。不自然に前方が空いていて落ち着かないのは、青峰も同じだろう。二人してずっと黙って座ること三分。青峰がでかい口に二個バーガーを押し込んで行くぞと言った。

行くぞとか言っても結局行く所なんてなくて、帰宅路を歩くしか出来ない私たちは微妙な距離を保って歩いていた。どうしても青峰の隣は歩くことが出来ない。威圧感があるとか、怖いとか、一緒に居るところを見られたくないとか、そんな単純な理由じゃなくて、何となく、隣に居ると手を繋ぐんだろうな、と思ったらつい足が遅くなってしまう。青峰も合わせて遅く歩くから、あんまり差は出来ないけど。

「なあ」
『なに』
「こっちこいよ」
『うん、嫌』
「…来いっつってんだろ」
『……』

腕を無理に引っ張って隣に立たされて、そのまま手を握られてしまった。前から強引なところがあった青峰がこういうことをするのは別に珍しいことではなく、むしろいつものパターンだった。でも少し違ったのは、存外冷たかったのだろう私の手をポケットの中に躊躇いなく入れたことだった。思わずひっと声が出て、青峰はそんなに嫌かよ、と聞いてきた。多分青峰は、私のことを潔癖症なんだと思っているみたいだ。逆なのを理解するにはまだまだ時間がかかるんだろう青峰に、今日は私から寄り添った。

END



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