泣き付いてくるあの子が好きだ。
そう気付いたら自分が最低に思えたけど、まあ仕方無い。すぐに諦めた。

脱力の歪み

モデルってだけでモテた俺は、もう女の子が信じられない。だから高校に知り合った女の子とは表面上だけ。メアドは教えない。そうしてたら今度は俺の周りのやつに媚びを売るようになった。それからメアド勝手に聞き出すとか、本当に気持ち悪いと思った。すぐ着拒したけど。
そんな俺だから、幼なじみのまいと付き合った。好きじゃなかったのかとか言われたら違うと断言出来る。元々大好きだった幼なじみ。幸せ以外の何物でもない。それでもやっぱり、モデルの彼女は荷が重いのだ。

初めてまいが嫌がらせを受けているのを見たのは、教室でつかみかかられていたところだった。部活動の終わる時間まで待っていてくれたまいを妬むやつが、手を出す前に俺が見つけた。すごすごと帰っていく女の子は表情をコロッと変えるのだ。さっきまで睨み付けていた顔を緩ませて笑うところを初めて恐ろしいと感じた。
俺が気付かなかっただけで、多分まいは数多くのイタズラを受けていた。きっとあの時も…という状況が、俺の記憶には何個もあった。知らないうちに辛い思いをさせていたという罪悪感が、この時にはまだ確かにあった。

一度だけ、他の女の子が居るときだけまいと女の子との接し方を平等にした時期があった。そうするとすぐに女の子の中では噂が広まり、今度はまいを哀れみ始める。惨めな思いをしても、いじめよりはましだと思っていた俺に、まいは泣いてすがる。私には飽きたの?と大きな滴を溢して聞いてきた。ゾクリと何かが背筋を通った。


そこから可笑しくなってしまった。わざと女の子たちの前でいちゃつき、見せ付け、疎まれる存在になるようにと、強調をする。周りから孤立していくまいは他人が見るよりも精神的に破綻していく。俺以外にすがるもの全てを無くしていき、それでも残った俺にすがろうとする姿は堪らなかった。俺だけを見て、自分より俺を大切に思い、俺だけを求め、俺以外必要としない姿が愛しかった。ふと俺は暴力を受け、泣いた彼女に興奮を覚えた。


『ねえ、別れよう?』
「は?」

唐突に現実に引き戻された気がした。元々現実しか無かったはずなのに引き戻された気がしたのは多分まいが俺だけのものだと過信しすぎたところがあったからだ。俺は捨てられないだけの自信が、確信もなく確かにあったから。

『な、んか…涼太最近変だし…私、いじめに、疲れたの』
「何、言ってるんスか…」
『涼太、守ってくれなかった。私は、必死に、我慢したのに』
「だ、ってそれは…!」
『涼太は私の何が好きだったの?』
「それはっ…」
『言えないでしょ?だって、涼太私のこと好きなわけじゃないもん。好きな子がいじめられて大丈夫なわけないもん。ねえ、別れてよ。私も別にもう涼太なんか好きじゃないから』
「……本当に、言ってんスか…?」
『本当だよ』


俺がずっと黙っていると、まいはすぐに走って出ていってしまった。次の日に登校すると学校では女の子がいつもよりしつこく女の子が付きまとってきた。やたら彼女はどうしたのとか元気ないねとか落ち込んでるのとか聞き放題に俺の傷口を抉り込むからあるなら女子用の殺虫剤が欲しかった。まいは暫く登校しなかった。

一週間経ったか経たないかくらいのときに女子トイレからすごい音がしたのを聞いてしまった。正直どうでも良かった俺はそれでも仕方なく、一分くらい検討して中を覗いてみた。運命だと思った。彼女が居た。足が浮いてる。今日のお前のラッキーアイテムなのだよと朝に会った緑間っちからもらったハサミを取り出す。今日の運勢は十二位だったのだよとか言ってたけど、俺にとっては今日の運勢は人生一番だ。彼女を吊るす縄をハサミで切る。手中に落ちてくる身体を力強く抱き締めて、未だ首を絞めている縄をほどいた。息をなかなかしない彼女に人工呼吸をする。不謹慎にも懐かしかった。
息を吹き返した彼女に、もう一度と告げた。返事はくれなかった彼女はそれでも俺にしがみついてくれた。


後日別れろと脅されていたことと別れなければ俺にも危害を加えるとかいう脅迫の手紙が届いたと聞いた。それはもうファンじゃないから、襲われたら叩きのめすだけだけど、彼女にも手を出されるのは嫌だったから警察に相談に行った。事務所の方にも対策をしてもらって、そうしたらもう、俺たちの敵は居なくなった。これから俺たちは幸せになる。絶対に、もう離すこともなく。

END



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