そのシュートが落ちるときに、俺は確実に何かを奪われてしまった。

マイデスティニー


何も話し掛けることなど無かったのだ。それなのに俺は、声に出していた。あ、という軽い言葉でも、彼女は振り向いた。


『…どうかした?』
「……いや、」

言葉もなくたじろぐ俺にただ首を傾げている同い年くらいの少女がボールを持ってこちらに近付いてきた。向かい合うと、自分より少し背が高く、思わず一歩下がる。
少女が俺を真っ直ぐ見つめた。

『私まい』
「……」
『何て言うの?』
「み、緑間真太郎…なのだよ」
『へー、みどりま…みどりま…みーちゃんとかどう?』
「は?」
『あだ名あだ名!真ちゃんとか?』
「緑間と呼べ!」
『…仕方ないなあ』

さっきとは全く違ったおちゃらけた性格のまいは、カラコロと笑う。何がそんなに可笑しいのか、むっとする俺に手に持つボールを押し付けた。

『はい』
「何なのだよ…」
『シュート見てたから、したくなったのかなって』
「…遠慮するのだよ」『えー、簡単だよ?こうやって放るだけ』

軽く放られたボールはキレイにリングの中を通って落ちる。ダムッとワンバウンドして、そのボールをまた手中に納めた少女は、いつの間にかゴール下へと移動していた。そして、またキレイに俺にボールを放った。緩やかなパスでも、しっかりとした速さに少しどぎまぎした。


『ほら、打ってみなよ』
「無理なのだよ」
『人事は尽くしてなんぼでしょ。ほら打って打って』

パンパンと手のひらを打ち付け大きな音を出すまい。煽られて仕方無く放ると、リングに弾かれる。こうなるから嫌だったのだと溜め息を吐こうとしたが、掻き消された。

『すごい!』
「何を言っている、良く見るのだよ。俺のシュートは入っていない」
『一発で入るわけないじゃん!私なんかリングにかすりもしなかったもん。ね、そう思えばすごいっしょ!』
「……」

花が咲く、というのはこのことか、と思った。屈託なく、本心で笑うまいは本当に眩しい。


「お前は…百発百中なのか?」
『んにゃ、十発打って九発入ればもうけ!って感じかなー』
「じゃあ俺は百発百中になるのだよ」
『へー、大きく出たね。さっきまで無理とか言ってたのに』
「俺は無謀なことはしない。まいの話で確信した、それだけなのだよ」
『遅くなったけどなのだよってなに』
「……」

出会ったのはとんでもなく変な少女だった。それでも、これも定められた運命なのだと思う。俺がバスケと出会えたのは、たった一人の少女のおかげだった。

END



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