大切にされているのだとわかる。だからこそ苦しいと、彼は理解してくれはしない。


「おはよう、まい」
『おはようございます』
「今日は少し眠そうだね。睡眠不足なら保健室でベッドを借りて休むと良い」
『授業がわからなくなるので、遠慮します』
「それは僕がフォローすれば済むことだよ」

にこりと整ったきれいな顔が笑みを作れば、後ろから沸き立つ黄色い声。そのまま白い手が私の頬を撫でると、黄色い声は醜く歪む。ああ、嫉妬ってやっぱり汚いですね。

「僕が教えてあげるから、休んでおいで?」
『机で寝ます』
「…そう」
『気遣い、ありがとう赤司くん』

私が感謝の念を伝えると、赤司くんは必ずホッとしたような顔をする。それが、行き過ぎた過保護が今日も私を苦しめていないかどうか、赤司くんが気にしていることを私に知らせる。赤司くんは私にとても気を遣う。それが彼なりの謝罪であり報いだと思っているのだ。


放課後、バスケ部が終わる時間に待ち合わせをしている部室前で私は赤司くんを待つ。赤司くんとは親しい付き合いをしていて、まあ恋人同士だ。部室から出てきた赤司くんは少し疲れた顔で笑う。

「待たせたね」『いいえ。お疲れさまですね』
「ああ、今日は少し、練習の内容を変えてみたんだ」
『そうなんですか』
「結構良いから今後も取り入れようかと思っている」
『……』
「つまらないだろう、こんな話」
『それ、いつも言いますよね』
「この話をしていると、まいの口数が減る」

そんな細かいところを気にする赤司くんが、恐ろしいと言われる理由がわからない。良く知りもしない人がそう言うのだけど、彼は何に対しても真面目で真剣なだけで、だからこそ行き過ぎてしまう行動はあるにせよ、間違いなく彼は優しい。だから私は彼の隣に居られる。

『赤司くんが、嬉しそうに話してくれるから、聞き入ってるんです』
「……」
『もっと聞かせて…という合図の様なものなので』
「そうか」

クス、きれいな双眼が細められる。そうして彼はまた話始める。反対方向の私の家に着くまで。

『今日もありがとうございました』
「いや、僕もここまで送らないと安心できないから」
『相変わらず心配性ですね』
「まいにだけだ…家にご両親は?」
『居ますよ。心配しなくても、盗みに入られて困るようなものはありませんので』
「…じゃあ、また明日」


そう彼は呪いをかけて背を向ける。彼の言霊は本物だ。明日、と言えば絶対に会えてしまう。
「ちゃんと戸締まり確認して寝るんだよ」
『…はい』

心配性な彼に心配されるのは結構当たり前のことで、私だけじゃないこともわかってはいるけれど、それでも喜んでしまう。そして、彼の貴重な時間を削っていることを感じて申し訳なくなる。それでも彼は止めてはくれない。どうしてかと聞いたら私がそれをするに値するからだと、そう言われてしまったら、素直に受け入れるしかない。赤司くんの言霊は本物だから、私は善き大人に成長していくのだ。

the strongest

彼が強い理由はここにある。

END



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テーマ「人外ファンタジー」
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