やっちゃった。とオチャメに言いのけたのはトトロより大きな彼だった。紫の垂れた髪の毛はダルそうに跳ねたりくねったりして忙しそうだ。そんな彼の手中には今回の問題に成りうる円形のあれが、握られていたのだが私は見ないふりをして百八十度回転して見せた。紫原に逆の手で頭を鷲掴みされた。

「ムシとか嫌いだしー」
『私なにも聞いてないだしだし』
「ふざけないでよね〜大変なんだからさ〜」
『紫原だけがね』
「まさこちん来ちゃったらどうなるだろうなあ」
『紫原だけが叱られるだろうね』
「まいちんも一緒に叱られようよ」
『イヤ』

きっぱりと断ってから後ろを振り返り手中の物を見た。ゴールのリングがべきべきと剥ぎ取られて無惨な姿になっている。何度か苛立った紫原がゴールを壊していたのは知っていたが、実物を見るのはまだ慣れない。頭をまだ掴まれているままなんだけど、彼なら握り潰せてしまうのかも知れない、のんきな性格なのに恐ろしい。

「一緒に叱られないの?」
『うん』
「絶対?」
『絶対』
「俺が脅しても?」
『おどして…ん?脅し?』
「うん、脅し」

へら、と口の端が緩く曲がって笑った。目元はまだダルそうなのに、笑っているのがよくわかる。憎たらしい顔をしながら紫原が私の手を取る。

「食べちゃうぞ」
『可愛くない』

そして笑えない。と続く前に、舌先が指に軽く触れた。びっくりして、手を引っ込める私の片方の腕を引っ付かんで、紫原は前進する。連れられたのは体育館倉庫。押し込められてまた、手を取られた。躊躇なく指を口に含んで、飴のように彼は舐め出した。

『ちょ、っと…』
「ゆびさき、よわいのー?」
『くすぐったい、ふひっ』
「かーわいい」

笑みを濃くした口が四本まとめて口に含んで、うひゃっ!と変な声を出してしまったら、紫原の機嫌はどんどん良くなる。甘噛みまでし出す彼は、しつけの悪い犬そっくりで、いつ指を噛み千切られるかひやひやする。

『もう、やめて…って』
「やだしー」
『っ…お願いだから』
「えー?じゃあ一個、お願いきいてくれたらいいよ」
『なに?』
「秘密」

どうする?指先をぺろりと舐めながら聞かれればわかったとしか言えなくて、名残惜しげにきれいに唾液を舐めとる紫原を見ているときに、ガラガラガラ、と音が鳴る。


「こんなところに隠れて器物破損の罪から逃れようとした挙げ句イチャつきやがって……」
「げっ」
『まさこちゃん…』
「お前ら、覚悟は出来てるよな?」
「まいちん引き受けてね、お願い」
『えええ!嫌だ嫌だ嫌だ私なにも壊してない!!』


ひゃー、と駆け出す紫原に続き私も駆ける。まさこちゃんが鬼の形相で追いかけて来るのを振り切って振り切って三十分後。ようやく来た氷室と主将によってまさこちゃん沈静化はなされたのである。


器物破損罪逮捕しちゃうぞ

END



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テーマ「人外ファンタジー」
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