どんな色でも受け入れるアイツが嫌だった。





どんなやつにも愛想を振り撒いて、それで嫌味を言われる訳でもなく、円滑に関係を築き上げた上で偉ぶる訳でもなく、そんなアイツが嫌いだ。
それなのに幼なじみのよしみで一緒にいる時間が多い。さつきの次くらいには一緒にいる。

部活は別々で美術部なアイツは四角い折り畳み式の板にオイルと筆と色とりどりの絵具を用意して真っ白なカンバスに丁寧に色を置いていく。その姿は小さい頃から見てきたものと同じだ。俺にはクレヨンと油絵具の違いがわからない。

帰り道、遅くまで絵を描いていたアイツが校門に立っていた。一緒に帰ろうと言われ、送っていくことになった。家はほとんど距離がない。

今まいが描いているものを俺は知ってる。星空だった。黒い色をした青にちらつく光を懸命に描くために遅くまで残ることを俺は知ってる。屋上から丁度見える位置にある部室の中で、まいが夜空を見上げている姿を俺は見てる。
コイツは知らない。俺がいつも何をしているのか、何を見ているのか、どんな気持ちで、見て、聞いて、触っているか。それが悔しい。自分だけがどれだけコイツのことを思っているのか思い知らされるのが嫌だ。こんなの、とか続く言葉は余りにも寒くて寒くて耐えられない。

『ねえ、今夜空を描いているんだけど』
「おう」

知ってる。とは言えずに黙って聞いた。

『私、青が一番好きなの。相性が良くてね、青の色を作るときが一番上手くいくの』
「へえ」
『大輝の色だよね、青って』

嬉しそうに笑う横顔がムカつく。こんなどうでも良いことで俺を喜ばせるな、くそ。


『青を見ると大輝を思い出すんだ。夜空を見ても思い出して、そうすると絵が自分でも納得出来るくらい、仕上がる』
「じゃあ、俺のおかげだな?」
『本当、青峰様々だよ』

お互いに笑い合って、それでも奥底では冷めた感情が渦巻く。独占したい欲求が、もうそこまで来ているのを、まいは無意識に煽り立てる。質の悪い奴。
『大輝』
「…なんだよ」
『あのさ、私大輝にはあんまり絵の話をしてなかったんだけど、いつも屋上から美術室見てるよね?』
「ああ」
『興味、あるの?』
「ない」
『じゃあ…』

まいの手が直に俺の手を握った。小指から中指までを弱々しく包む手のひらには、若干熱があった気がした。熱くて俺のヒューズが飛ぶかと思った。ヒューズじゃなくてたががぶっ飛んだ。

『興味あるのは私?』
「……」
『ね、大輝。私、好きなものじゃないと上手く描けないの』
「まい」
『なに?』
「嫌いにならないでくれよ」

それで、俺の全部を話すから、受け入れろ。そう言って抱きついた俺は子供みたいに必死で、受け止めて俺をあやすまいは親みたいにしっかりしていた。

『嫌いになれるわけないでしょ。私の初恋なんだから』

カラフルな笑顔が飛んできた


END



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テーマ「人外ファンタジー」
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