突然女が泣きついてきた。しかも何かよくわかんねーこと言ってくる。頭が働かなくなって来たからとりあえず家に上げてやったらベッドに勝手に飛び込んで寝出したからベッドから放り投げて床に移動させたらそのまま寝た。
もう夜も遅いしさっさと寝るかと自分もベッドに潜り込む。明日またあの女を追い出せばいいか。今日はなかなかの胸に免じて許してやるよ。


*****


自分にしてはやけに寝覚めが良かった。何かを焼いた香ばしい匂いに釣られて起き上がると、キッチンで何かが動いている。寝惚けながらとりあえず顔洗ってキッチンの方を見直したら床に寝てた女が何か作ってる。別に朝とかは寮で飯貰えたりするから作らなくて良いんだけど。

『おはよう』
「…はよ」
『昨日は突然押し掛けてしまってごめんなさい。三日間お世話になります』
「……」

そういう話を昨日していたのかと納得した。はいどうぞ、と出された朝食は普通の家庭料理。でも味はハイセンス。やべぇこいついいなとか思って顔を見たら美味しい?って聞かれたからまあまあうめぇな、とだけ言っといた。

「なあ、お前名前なんて言うんだよ」
『…昨日言わなかった?』
「昨日は何言ってるかわかんなかったからとりあえず上げた」
『無用心』

コロコロと笑った女に俺が無用心で良かったなと一言だけ返すと今度は苦笑した。良く表情が変わる女だと思った。

『私は木下まい』
「ふーん」
『貴方の名前は昨日聞いたから知ってるわ、大輝』

そう言って笑った顔がやけに女らしかった。その後は学校は無いのかとか聞かれて夏休みだバカ、バカって言う方がバカよ高校生は良いわね、とかいうやり取りをした。どうやらまいは高校生ではないらしい。

一日目は普通に過ごした。家を物色する様子もないからそのまま放っといたら昼食の買い出しに出掛けていった。しかもまいの自腹だから多分金目当てじゃないんだろう。帰ってきたまいは一日じゃ絶対に使いきれない量の買い物をして、中にあった菓子を俺に渡してきた。まい曰く子供ってこういうの好きでしょ、だそうだ。

「どんだけ食うつもりだよ」
『いや、まさか一日で食べきる訳じゃないよ』
「あ?」
『明日から天候が荒れるじゃない?』

そういえば台風が来るとか言ってたな。まあ外出する予定がなかったから俺にはあんまり関係ねぇけど。それでもまいには関係があるらしい。

「台風が来るっつーのに、家帰らなくて良いのかよ」
『良いの。親にお世話になる歳でもないから』
「いくつだよ」
『二十歳』

二十歳なんか全然じゃねーかとか思いながら歳の差結構あんだなとか思った。全く大人に見えないけどな。

『二十歳はもう大人だよ。周りからそれなりの期待と圧力かけられた上で生きてる』
「……」
『それがまた楽しいんだ』
「へえ…」
『まあ、大学も長期休暇になったからこうして旅に出たんだけど、まさか台風と被るとは思わなくてさー』
「そういや、どうして俺の部屋を選んだんだ?」
『それはねー』

語尾が伸びだした上機嫌な様子のまいはそのまま材料を片付け始めた。玉ねぎニンジンじゃがいも肉、次はカレーか。

『他の子は入れてくれなかったの。というか、部屋から出てこなかった』
「……」
『不審者だと思ったんだろうね。そっちの方がお利口さん』

どこかの誰かさんは違うけど。からかうように笑って片付けが終わった手が頭を撫でた。
その後は予想と違った肉じゃがを食べてゆったりして、夕飯にカレーをリクエストしてまた食べてゆっくりして、風呂に入って寝た。いつもと全く何も変わらないのに、なんとなくゆっくり眠れた気がした。


*****


起きたらベッドにまいが入っていた二日目。最後だからと豪華な朝食を振る舞われた三日目。台風が通過し終わり穏やかな天候になり、自転車を手にするまいは全く大学生には見えなかった。

『さようなら、ありがとう』
「おう、気を付けて行けよ」
『…うん』

笑った顔は苦笑だった。何だよ、まだ居たいならそう言えよ。意地っ張りな奴。言ったら俺だって考えてやるのに。

何で俺こんなひでー顔してんだろ、家に戻って鏡を見て思った。多分あいつが微妙な顔したのは俺の顔を見たからだ。名前なんか聞かなきゃ良かった。


*****


八月三十日、インターホンがあるのに扉を思い切り叩く音に起こされた。

『ね、また泊めてくれないかな、台風、来ちゃっ…』

言い終わる前に抱き締めた。


アンハッピーブレイク

END

***
ブレイク:休憩



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